枢木スザクは育てたい

 何かを育てるということは、それなりの根気と責任感が必要だとスザクは思う。
 それは育てる対象が植物であっても人間であっても変わらない。


「ぅ、それ、いやだ」
「いや?」
 誰かに聞かれることを恐れてか、いけないことをしているという自覚のためか、密やかでどこか甘い響きを持つ二人の声と息遣いが室内に浮かんでは消える。日中は勉学に勤しむための穢れのない部屋の真ん中で睦み合い、神聖な室内には不釣り合いな水音がいやに響きルルーシュはかぶりを振った。
 誰も居ない空き教室の内側に鍵をかけ、声を潜めながらスザクはルルーシュを床へ組み敷いていた。教室のカーテンからは昼とも夜ともつかない色の光が差し込んでいた。
「きもち、わるい」
「どんなふうに」
「どんな、って、……ぬるぬるして、いやだ」
 教室に響いていたぴちゃぴちゃというはしたない水音がぴたりと止み、仰向けに寝転ばされそれまで目を瞑っていたルルーシュは顔を上げた。
「ふうん」
 ルルーシュの胸に蹲って顔を寄せていたスザクは、潤んだ目をしたルルーシュと視線がかち合った。スザクはそれを気にも留めず、もう飽きたような素振りをして湿った胸元から肋骨の浮き出た脇腹へ右手を滑らせた。スザクの手の動きに反応するかのようにぶるりと震えたルルーシュの薄い腹筋を視界に捉え、無意識にほくそ笑んだ彼は、臍や下の毛の生え際を唇で愛撫した。手の下でびくびくと震え続ける彼の肌は心なしか熱を持ち始める。


「見てて、ルルーシュ。目を逸らさないで」
 そう声をかけたスザクは、ルルーシュの下着のゴムを掴み乱暴に引き下ろした。ふるりと飛び出した己の陰茎につい目を背けたルルーシュはしかし、彼に名前を呼ばれて再び羞恥に震えながら自らの下半身に視線を移した。
 スザクはまだ半立ちの彼の肉の根本を支え、蜜を零しそうな先端に吸い付いた。ちゅう、と音を立て、ルルーシュに見せつけながらスザクは唇を離した。暴れ出しそうな彼のしなやかな太腿を両手で抱え、スザクは首を動かして彼の陰茎を頬張った。愛しい彼の唇が自分のそれを包み、扱いているという現実にルルーシュは目がくらくらした。
 ルルーシュの左足に絡まったままの制服のスラックスが音を立てる。首元まで捲られた詰襟とシャツのせいで彼の白い胸元は露わになっており、スザクが先ほどしゃぶっていた胸の尖りは唾液で湿っていた。背中を戦慄かせ床から背筋が離れるたびに、胸を天井へ突き出すような格好になるのが居ても立っても居られない。ルルーシュの口からもう嫌だやめろ、という弱音が漏れるたびにスザクは嬉しそうな顔をするのであった。


 スザクは根本付近まで銜え込み、じゅうとルルーシュの肉の幹を啜った。ルルーシュはそのまま耐え切れず、彼の口内で達した。スザクの腕に拘束された太腿は痙攣し、力んで丸まった爪先は空を掻いた。
 はあ、と荒い息をつくと体も頭も一気に冷静になったのをルルーシュは感じた。学校の放課後の空き教室でなんなことを、と途端に自己嫌悪に苛まれた。口元を拭うスザクに対して、口内に精を放ってしまったことを謝る気力も残っていない。用意周到な彼はどこからか取り出した白いタオルでルルーシュの体を労わるように、体液が付着している部分を優しく拭った。


 生徒会室での集まりのあと、結局最後まで姿を現さなかったミレイに悪態をついていたルルーシュはスザクに声を掛けられた。腕を引かれそのまま黙って付いて行ったのが運の尽きだったようで、空き教室に連れ込まれ後ろ手で鍵を閉めたスザクの表情を見てすべてを悟ったが時すでに遅し。教室の後方の空きスペースに仰向けに組み敷かれ、詰襟やシャツを捲し立てられ男であるはずのルルーシュの胸に吸い付かれ指で捏ねられた。


 ここのところスザクはなぜかやたらとルルーシュの胸に触りたがった。
 やはり性的なことをするなら男同士でなく理にかなった女相手のほうがスザクのことを思うと良かったのではないかとルルーシュは思ったが、それを口にすると真っ向から全否定されルルーシュは黙るほかなかった。そのうちすっごく悦くなるから、と付け足されたがその言葉の真意を聞く勇気はルルーシュにはまだなかった。




 水無月に入ると連日雨が降り続いたがおかげで水やり当番の仕事は梅雨が明けるまで休止となった。
 たまに屋上へ赴いて作物の様子を見ると、雨水を吸った土は肥え茎は伸び、いくつもの青々とした葉を付けていた。このまま順調に育てば晩夏から秋の初めにかけて収穫ができるだろうか、と誰もが思っていたが、何事にもアクシデントは付き物である。
 長かった梅雨が明け長月に入ると同時に暑い暑い夏が始まる。水やりは朝と放課後に分けたがそれでも正直心許ない。生徒会のメンバーはお互い当番とは関係なくとも時間を見つけ積極的に作物に水やりを続けた。そうした努力の甲斐あって、眩しい太陽の日を浴び枯れることなくすくすくと作物は成長を続けた。
 ある日、エリア11に台風が差し迫っているというニュースが天気予報に流れた。これではせっかく実りかけた作物が全部駄目になってしまうと、手が空いている者たちで作物に防風ネットを被せた。
 予報どおり大型の台風がエリア11に接近し、此処アッシュフォード学園も例外ではなかった。台風が接近したのは深夜の間だけだったため、翌朝は通常通り生徒は登校し授業を受けた。授業が始まる前の朝、どうしても心配になってみなで屋上へ駆けつけると、嫌な予感は的中して大惨事になっていた。しっかり掛けておいたはずのネットは飛ばされ地面に落ち、剥き出しになった土は吹き飛ばされたりしてぐちゃぐちゃになっていた。作物の葉や茎は絡まっていて窮屈そうにしていた。慌ててその場にいる人間だけで元に戻そうと躍起になった。始業ギリギリまでかかったが、ある程度作物が育ち切っていたおかげもあってこれならなんとかなりそうだ、という雰囲気になった。


 作業がひと段落したあと、ひとまず泥だらけの手を洗おうと部活棟を降り、運動場の隣の給水場までスザクとルルーシュは足を運んだ。朝からまったく人騒がせだ、と言うわりに彼はどこかほっとしたような顔をしていて、スザクはそうだねと相槌を打ちながら微笑んだ。


 急いで教室に戻ろうとしたとき、不運なことに二人は突然の大雨に遭った。海水からの湿った風と高気圧の影響により真夏によく起こる、所謂ゲリラ豪雨である。他の生徒会のメンバーは大丈夫だろうかとみなの心配をしながら、バケツをひっくり返したような雨水を頭からまともに被ったスザクとルルーシュは、とぼとぼと渡り廊下を歩きながら始業開始の合図音を聞いた。


 全身濡れ鼠のまま授業に出るわけにもいかず、体操服や体育館シューズを収納してある男子更衣室に二人は移動した。
 空調も効いておらず窓も閉め切った無人の更衣室の扉を開けると、夏の熱気と仄かな汗の匂いが二人を出迎えルルーシュは顔を顰めた。スザクは気にせず平然と部屋へ入り自分の名が記されたロッカーの元へ行くと、何をしているのルルーシュと咎めた。
 水無月の中旬ごろから制服の衣替えが始まり、長月の今では学園の生徒はみな夏服を着用することが義務付けられている。ルルーシュももちろん例外なく、夏用の白い半袖のカッターシャツを着ている。几帳面な彼は毎朝アイロンがけをしているのであろう、皺ひとつないそれを当たり前に着ているが、今は水に濡れてルルーシュの体の表面に貼りつき内側の白い肌を透けさせていた。スザクは出来るだけそれを視界に入れないように黙々と着替えを済まそうと、雨水が滴る毛先や顔を乱雑に拭った。
 ふと、首筋を舐めるような目線にどきりとして隣を振り向くと、ルルーシュの顔がこちらを向いていたがスザクが気づいたことが予想外だったのだろう、しまったという顔をしてすぐさま彼は向き直りロッカーの中をまさぐった。ルルーシュはまだ毛先から水滴が滴ったままだったが、湿った黒髪の隙間から顔を覗かせる耳が微かに朱に染まっている。
 いじらしい彼の素振りに火をつけられたスザクはロッカーの戸を閉め、スザクの背後へ忍び寄った。


 ルルーシュの長い毛束が首筋に貼りつき水を垂らす。普段は白いはずの彼のうなじは、今は血色がよく鮮やかな赤に染まっていた。
「どうしたんだ、」
 ルルーシュは背後の不穏な気配に対して言い振り返ると、不穏な気配の張本人であるスザクは自らの左手をルルーシュの顔の横に突いた。呆気にとられる隙だらけのルルーシュの顎を取って、そのまま口付けた。ルルーシュはスザクの下で暴れたが、舌で上顎を擽りルルーシュの舌を引きずり出す頃にはその可愛らしい抵抗も収まり、スザクの胸板を叩き押し返していたその細腕で彼の湿ったシャツを握り縋り付いていた。


「んぅ、ふ……ふう……」
 いつまでそうしていたのだろうか。
 スザクの舌や唇の動きに従順になったルルーシュは、口の端から飲みこめなくなった唾液を滴らせスザクの右手を濡らした。スザクの器用な舌の動きに合わせて、ルルーシュも懸命になって返した。
 先ほどまで更衣室の窓を叩き割る勢いで振り続いた雨脚も今は鳴りを潜め、朝の穏やかな日差しが水滴にきらきらと反射していたのを、ルルーシュは酸素の薄い頭でぼんやりと視界の端に視認した。


 舌と唾液をすり合わせながら、スザクはルルーシュのシャツのボタンを外すことに躍起になっていた。ボタンを上から3つほど外して隙間から右手を差し込むと、思いのほか冷たい素肌に触れることができた。突然の刺激に驚いたルルーシュは肩を揺らし、鳥肌を立てた。
 いったん唇を離し、スザクはルルーシュの胸の頂きに指の腹を掠めた。そして人差し指で乳輪を優しく撫で、困惑する表情のルルーシュの米神や耳に唾液を塗した。ひくひくと体を震わせ身を捩る彼は、いつにも増して敏感だ。こんな日が昇り切る前の時間から、誰かが来てもおかしくない公共の場で淫行を働いている自分たちの状況に背徳感を感じているのだろうか。そんな慎ましい彼の反応は、スザクの興奮を煽る材料にしかならない。


 親指と中指でまだ柔らかい乳首をきゅ、と摘まむと小さな悲鳴が漏れた。
「最近、ここで感じるようになってきたんじゃないかな」
 ここ、という言葉に合わせてスザクは両方の乳首を撫でた。左手をずらして顔を寄せると、ルルーシュの手がスザクの栗毛を掴んだ。胸元に顔を寄せたままルルーシュのほうへ視線を上げると、彼は悩まし気に眉を寄せ、涙目になりながら首を横に振って唇を噛み締めていた。毛先がぱさぱさと音を立てて水滴を散らす。スザクはそんなルルーシュと視線を合わせながら、目の前の尖りに唾液をまぶした舌を伸ばした。
「う、ア!ん、んんっ!」
 ルルーシュは白い首筋を仰け反らせ、喉仏を天井に晒して喘ぎ声を漏らした。ルルーシュは思わず右手の甲を自らの口元に押し当て唇を引き結び声を我慢しようとしたが、それでも漏れ出る声や荒い息遣いを抑えることはできないようで、そんないじらしい様子にスザクは愛しさと同時に乱暴な衝動が渦巻いた。
 わざと派手な音を立てて啜り右手で尖りを抓ると、ルルーシュはもう堪らないといったふうにロッカーを背にしながらその場に崩れ落ちた。


 右手の親指と中指で乳首をきゅっと抓って伸ばすように引っ張る。ルルーシュは痛い痛いと泣きスザクの腕に爪を立てた。スザクはそのまま人差し指で乳首の先端を撫で、親指と中指は抓った箇所を労わるようにコリコリと捏ねると、頭上からは間延びした感じ入るような声が聞こえてくる。それに気をよくしたスザクは、口内で大きくなった乳頭に歯を立てたり吸ったりして弄んだ。


「ねえ、口でされるとの指でされるの、どっちが好い?」
「っえ、あ、何……っ?」
「ルルーシュは口と指、どっちでおっぱい弄られるのが好きなのか、って話」
 スザクはいったんルルーシュの胸から唇を離し、尋ねた。時折吐息を吹きかけると、それでも感じるようでびくびくと肩が揺れるのが愉快だった。
「ひ、っあ、しら、わかんな、うあ」
「答えてってば」
 しこったそこを両の手で爪を立てて摘まめば、ひいっと劈くような悲鳴が室内に木霊する。ルルーシュは顔を真っ赤にしながら唇を戦慄かせる。
「く、くち、くちが……」
「口が、何」
 スザクは喉がからからに乾いた喉を自らの唾で潤した。
 舌足らずなルルーシュは、必死にスザクに訴えかけた。
「くちが、すき、好き」
「っ、くそ」
 今日はまだ唇で愛撫していなかった右側を舐めてやると、ルルーシュは熱い息を吐き出しスザクの熱い口内と舌の動きに感じ入った。もっと舐めてと言わんばかりにルルーシュは無意識のうちにスザクの顔に向かって胸を突き出し、そんな己の体に気づき恥じ入った。


 スザクはもうルルーシュの中に入り込んで腰を突き動かしたい、好き勝手揺さぶりたいという衝動に駆られたが、自分も彼も午後の授業だってある上これ以上ここに居ては本当に他の生徒か先生に目撃され兼ねない。ここは本能より理性を優先するべきだと結論付けて、スザクはなけなしの理性を総動員し、自分と彼の前を寛げた。
 スザクはルルーシュと自らの肉棒をひとまとめにして掴み、上下に扱いた。
「ルルーシュも手伝って」
「ん、……」
 スザクは左手で彼の右手を中心へ導き、握らせた。ルルーシュの細い指が淫らな蜜にまぶされ、拙い動きで快楽へと導く。正直彼のその緩慢な動きでは物足りなさはあったが、視覚的に興奮を煽ることには十分満足していたのでスザクは何も言わなかった。


 顔を寄せ合って、唇と下半身を擦り合わせた。いやらしい水音が溢れ出て、ルルーシュは興奮した様子で息を吐き出した。ちらりと見える濡れそぼった口腔と舌に引き寄せられ、スザクはそこへ吸い付いた。
「んむ、……ふう、んっ…!」
「……っ、はあ……は………」
「っ、んむ、んん、っん――ッ!!」


 ルルーシュの喘ぎ声もスザクの荒い獣のような息遣いも、互いの口の中へ飲みこまれた。
 ほぼ同時に達し、二人分の精液で手はどろどろになった。


 妙に冴えた頭で、足元に落ちていたタオルを拾い上げスザクとルルーシュの手や局部、彼の濡れそぼった胸を無言で拭ってやった。
 そのまま気まずい雰囲気の中二人は体操着に着替え、更衣室の向かいにあるトイレで手を洗った。蛇口から出る冷たい水が、火照ったからだと思考を冷やしていく。蛇口の水を止めると同時に1限目の終わりを告げるチャイムが廊下に響いた。隣に居たルルーシュの横顔を盗み見ると目元が潤み、どことなく色っぽい雰囲気を醸し出していた。こういったことにはどこか疎く無防備すぎる恋人に、スザクはその日一日頭を抱える羽目になった。