枢木スザクは育てたい

 葉月某日。
 生徒会の一同は屋上菜園に集まり、汗水垂らしながら作物の収穫に勤しんでいた。
 昼になるとより一層気温は上昇し日差しも強くなるため、まだ気温が上がり切っていない午前中に収穫を行うことにした。
 一体自分はいつから農家になったんだ、と突っ込みたいほどにみな手は泥だらけになっていた。制服は汚れるといけないためあらかじめ体操着に着替えてはいたものの、その光景はさらに脳内でイメージする生徒会の活動とは程遠いものになっていく。


「わあカレン見て、このトマトこんなにも大きい!」
「ふふ、そうね。……あっ待ってシャーリー。じっとしてて」
 カレンはそう言うや否や、自らのタオルの汚れていない面でシャーリーの頬を拭った。
「泥ついてたから。ほら、もう取れたわよ」
「あっほんとだ、ありがとうカレン」
 炎天下の中、微笑ましい会話をする彼女ら二人を尻目に目の前ではルルーシュとリヴァルはカボチャ相手に奮闘していた。
「……爪の中まで土まみれだ」
「だから軍手しろって言っただろぉ!ルルーシュが人の言うこと聞かねーからっ!」
「うるさいぞリヴァル暑苦しい。おいスザクも突っ立ってないで、手伝え」
 はいはい、とどこか頼りない男二人に困った笑顔を見せながら、スザクはカボチャ収穫に本腰を入れた。


 午後からは収穫した野菜を使って、冷房のよくきいた家庭科室の一角を借り食事を作った。食事係の筆頭はルルーシュであった。彼は他のみなが切り分けた野菜類を鍋に入れたりボウルに入れ調味料と混ぜたりミキサーで磨り潰したりと忙しそうにしていたが、その横顔はどこか楽し気であった。何か月もかけて手ずから育てた作物である。
「美味しいといいね」
「美味しくないわけがないだろう」
 それはルルーシュの料理に対してか野菜たちに対してか、彼の表情からは一目瞭然であった。


 食事をひととおり作り終え、家庭科室内で少し遅めの昼食を楽しんだ。作物を育てていたときの苦労話や笑い話などのエピソードに花を咲かせた。
 アッシュフォード学園中等部に在籍するルルーシュの妹であり、実は生徒会にも所属していたナナリーも呼び、その場はさらに盛り上がった。
 みなの手で収穫した野菜を洗って切ったので、野菜の形が不揃いなのはご愛敬ということだ。皮のついたままのカボチャを指差し、これ切ったの誰とリヴァルが騒ぎ、カボチャはあんたの担当でしょうとシャーリーが唇を尖らせた。賑やかな午後はあっという間に過ぎ、夕方に差し掛かろうとする時刻になる頃には使用した食器や用具の洗い物に皆で追われた。







 空調のよくきいた涼しい部屋で、はあと何度目か分からない熱い息をつく。
 部屋はもうとっくに涼しいはずなのに、汗も動悸も顔の紅潮も収まることはなかった。


 ルルーシュの部屋の手触りの良い絨毯の上で脚を開いて三角座りをしたスザクは、股座にルルーシュを閉じ込め、目前に広がる彼の黒い後頭部や艶々した毛束に鼻を埋めた。鼻先で髪の毛を掻き分けながら、スザクは自らの腕を彼の胸に回して皺ひとつない清潔なシャツの一番のボタンを器用に外してやった。そうすると薄い夏用制服の襟元を寛げて、露わになる彼の色のない肩や首に唇を押し付けた。
 ボタンを外した手を、ルルーシュの行き場を失った右手に重ね掴んだ。そのままルルーシュのシャツの裾から右手を差し込み、脇腹を掠めながら胸元へ運んでやる。スザクは思わず舌なめずりしながら、表情の見えないルルーシュの肩に顎を乗せ、耳に言葉を吹き込む。


「自分で触ってごらん」


 スザクの掴んでいた右手がびくりと動揺で震えた。見えていないはずのルルーシュの顔が、手に取るようにわかる気がした。スザクは甘い毒をルルーシュに浴びせるように、ねっとりと言葉を紡いだ。
「やり方が分からないなら、教えてあげる」


 ルルーシュの力の入っていない右手を握り込み、親指と人差し指でまだ平らな乳頭を抓る。は、は、と彼の短く浅いブレスが耳に入り、スザクは知らぬ間に唾液を飲み込んだ。
 人差し指で乳輪をくるりと弧を描くようになぞったり、カリカリと爪で掻くとむずがるように身を捩らせた。
 つん、と控えめに主張してきたそれをスザクはルルーシュの手で弄んだ。引っ掻いても摘まんでも揉んでも、最初は控えめでいじらしかったのが、徐々に大胆で大げさな反応をルルーシュは返すようになった。


「もう自分でできるよね」
 そっとスザクは彼の右手から自分の手を離すと、ルルーシュは己の人差し指を突起の割れ目に食い込ませ、はくはくと唇を戦慄かせた。
 清廉な普段の彼からは想像できないような淫靡で恥辱的な姿に、スザクは口の中の唾液が溢れそうになった。


 スザクは彼の肩を掴んで床に引き倒すと、目の焦点が合わず蕩けきった表情のルルーシュが視界に入った。胸だけでこんなになるなんて、とスザクは驚きと歓喜と興奮で言葉を失った。


 ルルーシュの体は本当に育て甲斐がある。
 数か月かけてルルーシュ自身もまだ知らない――未知の性感帯を目覚めさせ、自分好みの肉体に作り変えることにスザクは躍起になっていた。その第一段階がようやくいま、達成されたのである。


 ルルーシュは、肩を掴んだまま微動だにしないスザクと対面し、こんなはしたない淫らな己の体に幻滅してしまったのだろうか、と焦り不安になった。
「す、スザク……?」
「ううん、なんでもない。ルルーシュが可愛くって、つい見蕩れてた」
「可愛いって言う、な、っン!あ、はあ!こら、っも、うン!」
「ゆひ、はなはないれ」
「っア、そこで、っ喋る、な、も!やっ、ああ!んっ!」
 おざなりにされ続け震えていた、左側の赤く色づいた隆起に容赦なく思い切り吸い付いてやった。スザクの唾液にまぶされたそれは彼の口内で甘い刺激に晒されたことにより、歓喜に震えていた。


 ルルーシュの胸でいやらしく主張するふたつのそれはまさに赤い果実のように熟れ、スザクに苛められるのを待っているようであった。左の尖りを舌先で突くとルルーシュはびくびくと体ごと震わせ、啜り泣きが入った喘ぎを漏らした。それでも夢中で、大胆な手つきで右側の果実を弄り回すルルーシュの色気は、凄まじかった。


「もし僕に触ってほしいくらい寂しい夜は、」
「あ、……なに、っ、……は、ん…」
「僕が教えたとおり、自分で乳首を弄ってペニスを扱けば、何も考えられなくなるくらい、気持ちよくなっちゃうから、」
「っや、あ、アア、ひい」
 スザクはわざと下品な言葉を選んでルルーシュの耳に流し込んでやった。その直積的な言い回しにルルーシュは耐えられず羞恥でのたうち回る。


 セックスのときのスザクの甘い声音は、ルルーシュにとって毒だ。
 どんな恥ずかしい言葉やはしたない行動も、彼の声で命令されるとルルーシュは抵抗できなくなるのだ。
 スザクはそれを分かっていて言葉を続けた。


「約束だよ」
 ルルーシュは無我夢中で首肯を繰り返した。