クリスマス大作戦

24日、当日。
公務にクリスマスという概念は存在せず、今日もスザクはあくせく仕事――ランスロットの動作テストに振り回されたり厳しい訓練へ参加していた。
今日は1か月前から研究所の上司であるロイドとセシルに、24日は定時で上がらせてもらいますと宣言していた。ロイドには根掘り葉掘りあらゆることを尋ねられたが、そのたびにセシルの鉄拳が飛んできていたので何とか詳細を喋らされることは免れていた。
そんなこんなで慌ただしい一日もようやく終わろうとしていた時、ランスロットのコックピットで運用テストを行っていたスザクは、突然画面中に表れたエラーメッセージに凍り付いた。
――どうして、こんなタイミングで!



丁度その頃、ルルーシュはスザクとの待ち合わせ場所に向かう電車に乗っていた。
予約していたレンタルスペースは駅からほど近くにあり、じゃあその駅で待ち合わせしようという流れで決着が着いた。その駅からルルーシュの自宅までは電車でも最低1時間ほどかかる場所にあり、少し早めに家を出ていた。
これからイブの夜になるということもあって電車は家族やカップルで大混雑し、電車内の車掌のアナウンスも聞き取りづらい有様であった。降りる駅を間違えてしまわないようにと窓ガラス越しに外を眺めていた。どこの街も電飾で華やかに彩られ、みな大きな荷物を抱えながら笑い合っていた。
電車が駅に着くたび乗り降りする客で車内はごった返し、ルルーシュは人波に流されいつの間にか扉の窓越しにまで追いやられ、頬が冷たいガラスにぺたりと張り付いた。自分の呼気で白くなるガラスに視線を移すと、幾分か口角が持ち上がっただらしない顔の男と目が合いげんなりした。
必要な材料はすでに昨日の夜のうちに持ち運んでいたので、ルルーシュはほぼ手ぶらの状態であった。まだ時間はあるだろうが、と思い上着のポケットに手を入れると、あるはずの物がなかった。反対側のポケットと、ズボンのポケットも探ってみたがどうしても出てこない。ルルーシュの右手に握られているのは財布と切符だけであった。


待ち合わせの日に携帯電話を忘れてしまうなんて、いくらなんでも間が抜けすぎだろう!
しかし真面目なスザクのことだ。今まで一度も待ち合わせ場所に遅れたことがないという実績を持つ彼のことを信頼して、ルルーシュは人混みの車内で揺られ続けた。


駅から降りると、自分以外にも待ち合わせ場所にここを指定したらしい人が大勢居た。これだけいたらスザクが来ても見つけてもらえるのだろうか、自分もスザクを見つけることができるのだろうか、と少し心配になった。できるだけ改札正面の分かりやすい位置に立ったが果たしてどうだろうか。
駅の時計は待ち合わせの時刻まであと30分というところを指していた。





スザクは、ようやくランスロットのエラーの対処を終えるや否やコックピットから飛び出して、それではお先に失礼しますお疲れ様でしたと叫んで研究所を走り去っていった。新しいパーツの交換と互換性のテストを行っていたところ、部品の整備トラブルと接合手順のミス、マニュアルの不備などの事態が重なり対処に大幅に時間がかかってしまったのだ。どうしてこういう日に限って不運が舞い込んでしまうのだろう、と目頭が熱くなるのを感じてスザクは情けなくなった。ロイドは、あんな面白い彼初めて見たよ~あんな顔もするんだね~若いね~、と暢気に感想を述べて、セシルはごめんねスザクくん、と剛速球で走り去る彼の背中に悲痛な面持ちで叫んだ。
待ち合わせの時刻から既に1時間は経過していた。心臓はばくばくとうるさいくらい鼓動が早くなっていたし背中からは冷や汗がにじみ出てきたが、頭はなぜか冷静であった。とにかく今から電話をかけて謝ることが先決だ、とスザクは更衣室に飛び込むや否や着替えのロッカーを開けて自分の荷物から端末を取り出した。更衣室に入ったときは気づかなかったが、既に着替えが終わっていてのんびりしていたらしいジノには、どうしたどうしたと心配されたが構っている余裕はない。着信履歴の一番上にあったルルーシュの名前をタップすると、即座にダイヤル音が響く。電話口で怒鳴られるのは覚悟の上だ。数回響いたコールが唐突に切れた。


「っ、ルル…ッ!」
「お掛けになった電話は、現在繋がりにくい場所にあるか――」


端末をいったん耳から離し、液晶画面に映された文字を見たが何度見てもそれはルルーシュの電話番号に間違いなかった。
「ルルーシュう?」
「っわ、ジノ!」
ジノは鬼気迫る様子のスザクを見かねて、彼の肩を掴んで手元の端末を一緒に見下ろした。
「ほーん、ルルーシュねぇ……例のスザクの恋人の……」
「な、な!卑怯だぞ、ジノ!」
気が動転してるスザクはジノに食ってかかったが、彼はまあまあ落ち着いて、と両手を上げ、もう何もしないよという態度を示した。
「それより、その様子じゃもしかして」
「もう、1時間遅れだ」
スザクはスーツを脱いで汗を軽く拭ってから急いで服に着替えた。喉も乾いたし腹も減っていたが、何も感じなかった。何度もルルーシュの携帯へコールしたが、愛する彼の声は聞こえてくることはなかった。彼の身に何かあったのだろうかと、スザクはまた嫌な汗が米神に伝うのを感じた。
「ずっと待たせてたらどうしよう、こんな寒い夜に、ひとりきりで」
「おいおい、スザクが泣きそうになってどうすんだよ。泣きたいのは相手のほうだろ」
今はジノの言うことがもっともだ。
せっかくルルーシュが二人きりでクリスマスを過ごそうと誘ってくれて、今までキスとセックスしかろくにしてこなかったスザクにとって、初めて恋人らしいことをしてやれる機会だと思ったのにこれじゃあ格好がつかない。


「さっさと迎えに行って引っ叩かれてこい、大遅刻のサンタさん」
スザクのロッカーの一番奥に、大切に置かれていた包みを指差してジノはスザクの背中を叩いた。
「今度、なんか美味いもん奢って結果報告してくれよ、アーニャも呼ぶから!」
それはちょっと勘弁してほしいなあ、と思いながら背中で彼の声を受け止めた。







待ち合わせに指定した時刻から1時間は経ったが、スザクは一向に現れなかった。待ち合わせをしているらしい男性は女性と、女性は男性と落ち合い次々とその場から去っていった。背後に見えるカラフルなオーメントと電飾でライトアップされたクリスマスツリーが自分を嘲笑っているかのように見えて、無性に苛ついた。

溜息は白く、周囲の喧騒にかき消された。
ポケットに入れた指先を何度も擦り合わせ、マフラーに冷たい鼻先を埋めた。








イブの夜、その時間帯は電車の乗車率はピークに達していた。縺れそうになる脚を叱咤してホームの階段を駆け上がり、扉が閉まるアナウンスを聞きながら目の前の電車に飛び乗った。上着の裾がドアに挟まれそうになりながら、ぜえぜえと肩で大きく呼吸しながら息を整えた。ここまで走ってくる間、外の冷たい空気を吸ってすっかり冷えた肺に暖房のぬるい空気が侵入してくる。
幼い子供にプレゼントを渡す父親、手を繋いで窓の景色を眺めるカップル、顔を赤くしながら大笑いするサラリーマン、携帯端末の画面を共有しながら目を輝かせる女子学生、みな各々のイブを満喫していた。待ち合わせの駅までの所要時間を端末でインターネット検索すると、待ち合わせから3時間後の時刻が無情にも表示され、スザクは項垂れた。








待ち合わせの時刻からもう3時間になろうとしていた。
律儀に外で待ち続ける自分は、こんなにあの男に対して一途だったのかと我ながら驚くくらいだ。
もう既にちらほらと周囲の店は本日の閉店作業に取り掛かっており、徐々に駅の喧騒は静かになっていった。
こういう日に限って携帯を忘れたことを、ルルーシュはこの3時間ずっと後悔し自分を責めていた。取りに帰ることも考えたが、家に帰るにも1時間以上はかかる。その間に行き違いになってしまったら、と思うと動くにも動けなかった。
スザクの身に何かあったのかもしれないし、軍の仕事が長引いて帰るに帰れない状況なのかもしれない。急な用事が入ってそもそも今日は来ることが難しくなったのか。あの真面目な彼のことだ、まさか約束を忘れているとは信じ難いが、寒い闇夜の中一人待ち続けていたルルーシュには、それもどうだか分からなくなってきていた。


待ち合わせから3時間が過ぎた頃、改札の前で立っているのはルルーシュだけになった。
待ち人を迎えた者たちは次々とその場を去り、彼の前を行き交うのはカップルが大半だった。時折後方のクリスマスツリーを指差しては綺麗だね、と囁き合ったり立ち止まって眺めたりする者も居た。


何がクリスマスだ、と思う。不意に目頭が熱くなり、視界が潤んだ。
頬に冷たいものが当たって、とうとう涙まで出てしまったのかと思った。が、それと同時に誰かが、雪だよ雪だ、と言い出したのをきっかけに、波及するように周りもみな雪が降ってる、と口々に言いだした。
見上げると星ひとつ見えない夜空が広がっており、粉雪がはらはらと舞い始めていた。








ようやく約束していた駅に着いた頃には待ち合わせの時刻から3時間半を回っており、スザクは全速力で階段を駆け下りた。駅員さんに危ないですよお客様、と注意された気がしたが構ってられなかった。車窓からは雪がちらついているのが見え、さぞ寒いであろう外に放り出され続けている彼ことを思うと居ても立っても居られない心地になった。



改札に切符を通して出口に出た。真正面には眩いほどの電飾で飾られた、目を引く大きなクリスマスツリーが飾られていた。
その近くで背中を丸めて体を縮こめた男が、俯いて立っていた。


あ、と思ったときには駆け出していて、彼の名前を叫んでいた。
ゆるゆると顔を上げた彼は、信じられないといった表情で自分を見つめていた。


「っ、ルルーシュ、ごめん、ごめん、本当に、ぼくはきみをひとりで、」
「す、スザクか……?」
「そうだよ、君をひとりぼっちにさせた、最低な恋人だ」
「そんな」
「そうだよ。僕をここでぶん殴ってくれても構わない。さみしい思いをさせて、ごめん」
スザクはルルーシュの冷え切ったからだを人目も憚らず思い切り抱き締めた。ルルーシュは未だに驚いていて、言葉少なに彼の抱擁をただ黙って受け入れていた。


「いや、俺も悪かった。そもそも俺が、携帯を家に忘れていなければ、こんなことには」
「あ、やっぱり忘れてたんだ」
「……申し訳ない」
ルルーシュは恐る恐るスザクの背に手を回し、上着の上から撫でさすった。まるで、許しを乞うているかのように。
その動作に、声音に、胸を打たれてまた涙が溢れてきそうになるのを堪えた。
「スザク、お前もしかして、また泣きそうになってるんだろ」
「そ、そん、な、こと」
スザクはルルーシュから体を引っぺがされ、顔をまじまじと見つめられた。
「……涙目になってるぞ」
「う、うう……っ!」
「っぷ、ははは!くくくっ」
ついにスザクの涙腺は崩壊した。そうしたらもう、それまで堪えていたものが決壊してぼろぼろになって、止まらなくなった。ルルーシュの冷え切った指がスザクの熱い涙を拭ってくれたが、彼の冷たすぎる指の温度に、スザクはまた涙を零した。


「もう、くくっ、こんな公衆の面前で、はははっ、勘弁してくれスザク、」
ルルーシュは腹を抱えて頬を赤くして笑っていた。どうやら相当ツボに入ってしまったらしい。
「ほら、もう泣き止めって。俺がとっておきの場所に連れて行ってやるから」
ルルーシュに腕を掴まれてエスコートまでされてもう情けないどころの騒ぎではなかったが、ルルーシュがなんだか上機嫌だったのでスザクは何も言えなかった。潤む視界の中で、夜風になびくルルーシュの麗しい黒髪と、真っ白な粉雪のコントラストがただただ美しくてまた泣きそうになった。


どんなイルミネーションや夜景よりも美しい光景だと心の底から思った。




ルルーシュが手配したというとっておきの場所にスザクはただただ驚かされっ放しだった。まさか日本の和室を再現した場所だったとは思いも寄らなかった。
襖を開けると畳のい草の匂いが香り、懐かしい気分になった。
「和室を選んだのって、もしかして僕のため?」
「当たり前だろう」
ルルーシュはふんと鼻を鳴らして自慢げにほほ笑んだ。


まずは二人とも、とくにルルーシュの冷え切ったからだを温めるべく湯沸かし器の電源を入れた。ユニットバスはないが小さなシャワールームが使えるらしいこのレンタルスペースは、追加料金を払えばオプションで敷布団も用意できた。ちょっとした旅館のようで、スザクは心を躍らせた。
シャワールームでルルーシュが体を温めている間、スザクは部屋をうろついて辺りを物色した。本格的なこのレンタルスペースは床の間もあり、花瓶には花も活けられていた。
客間の仕切りのガラス戸を引くと古い日本風の台所があり、床にはビニール袋に入った食材が並べられてあった。小型の冷蔵庫を開けると野菜や卵が押し込められており、彼の準備の良さや計画性に改めて感嘆した。ルルーシュはこのあと自分に食事を作ってくれるのだろうか。なんだか新婚さんみたいだ、とにやけそうになったが、さきほど追加料金で借りてきた敷布団の存在のせいで、スザクは食事どころではなくなっていた。


ルルーシュがシャワールームから上がると交代でスザクもシャワーを浴びた。軍での仕事が終わってからはいつも汗臭いのでシャワーを浴びるのだが今日はそれどころではなかったし、移動の間は全速力で走り続けたので正直汗だくだった。先ほど駅の前で思わずルルーシュを抱き締めてしまったが汗臭くはなかっただろうか。
お湯の出る方の蛇口を捻ると、突然シャワーヘッドから熱湯が噴出してスザクは飛び上がった。慌てて水の出る蛇口を捻ると今度は冷水がスザクの体を襲い、適温の湯を浴びるのになかなか手間と時間がかかった。このへんも古い日本の家っぽいな、とこの不便さゆえの愛しさを感じていた。


シャワーからあがると、ルルーシュはまだ髪をタオルで拭っていた。
「ドライヤーは?」
「ない」
「えぇえ」
「室内は暖房が効いているし、しっかり拭けば風邪は引かないだろう」
「まあ、そうだけど……」
水分を含んだ彼の艶々した濡羽色の髪は色っぽい米神や白磁のうなじに張り付き何とも言えない雰囲気を醸し出していた。


「ほら、髪の毛滴ったままうろつくな、じっとしてろ」
そう言うとルルーシュは客間の座布団を一枚持ってきて、スザクを隣に座らせた。備え付けのの、未使用のタオルをスザクの水濡れの頭に被せ、わしわしと犬のように拭いた。スザクがくすぐったがると羽交い締めにされ、そのまま雪崩れ込むように胡坐をかいたルルーシュの膝にスザクは頭を乗せられ、タオルドライをされた。
スザクはルルーシュの顔へ右手を伸ばして、ぺたぺたと形や肌触りを確かめるように触れた。氷のように冷たかった頬は暖かく、水分を含んでいてしっとりとしていた。目の下を親指でなぞるとくすぐったそうに睫毛を震わせる。唇を人差し指と中指でふにふにと弄っていると、割れ目から覗かせた真っ赤な舌先がちろりとスザクの指先を湿らせた。目元は朱に染まっていて、白い喉仏がこくりと上下に動いたのがスザクの位置からはよく見えた。


なんとなく甘い雰囲気が室内に流れたところで、いつもならこの流れで彼を押し倒してしまうのだが、今日はルルーシュのためにサプライズプレゼントを用意しておいたのだ。
急に立ち上がって自分の荷物を物色し始めたスザクの後ろ姿を、ルルーシュは湿ったタオルを片手に首を傾げて見つめていた。


「僕は君のサンタクロースだよ、ルルーシュ」
「はあ?」


後ろ手に何か隠してルルーシュの元へ戻ってきたスザクは、隣の座布団に座り直して、右手でルルーシュの左手を取った。そして恭しく自分の口元へそれを運び、彼の手の甲に静かに口づけを落とした。
今夜は恋人たちのための、神聖なる夜なのだ。



ルルーシュをイメージして選んだ青紫の包みを広げ、手のひらに乗る小さな箱を彼に差し出した。恐る恐るその箱をスザクの手から受け取り、ルルーシュは蓋を開けた。中にはシルバーのリングがちょこんと鎮座していて、ルルーシュから見てちょうど真上にあった部屋の照明の光を反射し、きらりと光沢を放った。
「内側にね、イニシャルも彫ってある」
言われたとおりリングの内側を見ると確かに、”S to L”の刻印が確認できた。


「左手、出して」
ルルーシュはおとなしく、黙ってスザクに左手を差し出した。ルルーシュの手は熱かった。
スザクは流れるような動作で、右手でリングを摘まみルルーシュの左手を自身の左手でそっと壊れ物を扱うかのように添えて、薬指に輪を嵌めた。


「似合ってる、とっても綺麗だ」
ルルーシュは目元を赤らめながら、銀の輪が収まる左手を見つめていた。


「お前の分はあるのか」
赤らんだ目元のまま、ルルーシュは唐突にスザクに問いただした。スザクは目を丸くして小首を傾げた。
「え、あるけど…」
「貸してみろ」
ルルーシュは有無を言わさず右手を差し出してきたので、別の箱に入っていた自分の分を彼に手渡した。そのままルルーシュに左手を取られ、手の甲に口づけをされた。自分がしたことと、同じように。その流麗な所作が嫌味なくらい似合っててお手本のように形に嵌っていて、本当に王子様のようで。スザクはただルルーシュの美しさに圧倒され見蕩れていた。



「ほら」
左手の薬指に嵌められたきらりと光るリングと、自慢げな笑みをたたえたルルーシュの顔を見比べて、スザクはたまらない気持ちになって破顔した。




「台所にあった食材、あれって今晩の食事の分だよね?」
「ああ、見たのか」
ルルーシュは少し照れくさそうな顔をしてかぶりを振った。お前と一緒に作ろうと思って、とそのあとに付け足された一言を聞いた途端、スザクはルルーシュをぎゅうぎゅうと力加減を忘れて抱き締めてしまった。勢いのあまりルルーシュの背中が弓なりに反り、苦しそうなうめき声も聞こえたが構わずにいると、そろりとスザクの背にルルーシュの細い腕が回った。
「ねえ、日数延長しようよ。ご飯作りは明日のお昼にでもどうかな」
「まあ、別にそれでもいいが……」
二人は和室のど真ん中で抱擁し合いながら明日の予定について話し合った。なんだか滑稽な気もするが、自分たち以外この場に居ないのだからいいじゃないかとスザクは勝手に納得していた。


「僕は欲張りなサンタクロースだから、プレゼントを贈っただけじゃ気が済まないんだ」
「なんだ、それ」
「君をプレゼントとして貰いたい、ってこれはさすがに臭すぎるか…」
「っく、ははは!すけべなサンタだなあ、っあ、こらスザク、おいって、ば!ン!」



窓の外では雪がしんしんと降り、冷たい夜風が戸を揺らす。
部屋に一か所しかない照明は二人の火照った肉体を淡く照らし、やがて影はひとつに重なる。
外気温と室内温度の差で結露が生まれ、ガラスには水滴が付着しやがてそれらは雫となって、桟に向かって静かに流れ落ちた。
部屋にある古時計の秒針はカチカチと静かに音を立て、時を刻む。長針と短針は、ちょうど文字盤の真上の数字を指していた。
恋人たちの長い夜は、まだまだこれからだった。