Previous Singularity 11話
下半身に這い寄る不埒な手の動きに顔を顰めると、男は可笑しそうに笑っていた。
「いいのか、家に居なくても。大好きな兄ちゃん達と暫く会えなくなるんだぜ」
既に勃ち上がっていた性器を手筒で擦られた。自然と上がる息を誤魔化せず、自分は男を睨むことしか出来なかった。
「……生意気だな」
太ももの上を滑る手のひらに脚を掴まれて、大きく股を開く格好にさせられた。滑らかなシーツの冷たい感触を背中に感じて、自分は頭を左右に振った。
「ッあ、あうっ、あ」
「大人しく喘いどけよ」
「あゃ、アっ、あ!」
ぱんぱんと肉がぶつかる音がして、頭が揺さぶられた。臀部に腰を打ち付けられるたびに声が上がってしまう。迫り上がってくる痛みや苦しさ以外の感覚に抗おうと、必死で頭を働かせた。
「なんか考え事してるだろ? 何考えてんだ?」
太ももの付け根を押さえられて腰を穿たれると、まるで冷静な部分がふやけてくるのだ。このままでは馬鹿になってしまう。身も蓋もないことを口走って、よがり狂って、醜態を晒してしまう。
「ひッう、あ! あっや、や」
「さっさと吐けよ」
「あっそれ、それっだめ、だめっ!」
中を擦られながら性器を弄られるのはひどく性感を煽って、堪らない心地になる。もっと強く激しくしてほしいと、卑しい本性が首をもたげ始めるのだ。自然と浮き上がる腰が彼の動きに合わせて揺れてしまうので、見られるのが恥ずかしい。
「駄目? 気持ち良いの間違いだろ?」
「あっあん、あ! あっん、あう」
「言い直せよ早く」
はだけて腕に引っ掛かっていた制服のシャツを剥ぎ取られて、剥き出しになった胸を弄くられた。体のどこもかしこもが熱くて気持ちが良くて堪らない。しかし、そんな下品な本音を口にするくらいなら、多少苦しくても我慢するほうがマシかもしれない。
「おい白龍」
腰を持ち上げられて、深い部分に杭が入り込んだ。体内の奥まで串刺しにされた体はろくに力が入らず、痙攣を続ける下半身が惜しげもなく彼の視線に晒されるのだ。
男は俄に口角を吊り上げて、こちらを見上げた。腹のあたりに、くたりと力を無くした性器がある。
「お前、触らなくてもイケるようになったのか?」
「ふぇ、あ……?」
「こんの淫乱。さっさと白状しろよ」
臍の周りに広がっている半透明の液体を指で掬って、周辺に塗り広げていた。糸を引く液体は自分の物なんだろうか。出した覚えはないし、そのような感覚もなかった。
「やっぱ頭が良いと物覚えも早いのかぁ? にしたって、ここまで早いとは思わなかったな」
「な、何の話……」
再び腰を穿たれて、声が上がった。
「おい、これが好きなんだろ。奥を揺すられんの」
弱い粘膜を思い切り突かれて、声がひっくり返った。本来、ここまで乱暴にされたら痛い筈なのに、苦痛以上に快楽が勝ってしまう。素早く抜き差しされるのも、奥を抉られるのも、腹の中側を悪戯っぽく擦られるのも、どれも好きだ。
「あうっ、き、きもちい、きもち、いっ」
「ははっ、そーかよ」
男の高笑いが耳元で聞こえた。涙で霞む視界の先に、悪い笑みを浮かべたジュダルが居る。真っ赤な瞳に見据えられて、無我夢中で頭を振った。
「きもちい、じゅだっ、あ! じゅだる、じゅだるう」
無意識のうちに舌を伸ばしていた。覆い被さってくる唇が舌の根を吸い上げて、粘ついた熱い唾液が流れ込んでくる。夢中で口の中を舐めしゃぶると、至近距離で目が合った気がした。同時に猛った性器が内臓の奥を貫いて、息が苦しくなる。
「ふぁ、っん、ふう」
動くたびにくちゃくちゃと酷い水音が鳴っていた。どちらのものか分からない体液で全身が濡れている。あとでシーツも布団も洗わないと、と妙に冷静な部分でそう考えた。
「あーやば、もう出そ……」
一旦上体を起こした男が、ぐいぐいと腰を押し上げてきた。性感帯を突き上げるような動作に体が悲鳴を上げる。じたばたと脚を動かしたがすぐに捕えられて、逃げも隠れも出来ないまま強烈な刺激を真正面から受け入れざるを得なかった。
「ひッい、イ、あ! あうっ、いっ、いく、いっちゃ、あー、あ!」
両手の指がシーツを引っ掻いて、宙ぶらりんの脚が虚空を蹴り上げた。執拗な責め苦に音を上げた肉体は制御が効かない。いく、いく、と唇が同じ音を紡ぎ続けるのを、男が黙って聞いている。
こんなはしたない自分はきっと誰にも見せられない。知られたくないし、知られてはいけない。慕っている兄や姉は勿論、学校の先生や同級生にも。平素の自分からは想像もつかないだろう。今の自分は自分から見ても酷い有様で、恥晒しだ。
ちらりと視線を上げると、熱っぽい視線を向けられていたことに気づいて恥ずかしくなった。こんな痴態を凝視されている。生まれたままの姿で、恥部を惜しげもなく晒し、恥も外聞もなく喘ぎ、よがり狂うさまを見られている。
「ア、っあ! 擦らないで、やだっ、さわ、触っちゃ」
勃起したままでおざなりになっていた性器に指が絡みついた。
「触んないでっ、あ! あうっ、やだ、やだっ」
「でも、出したいだろ?」
「ちが、そ、じゃなくてっ」
尻の中と性器を同時に刺激されるのは辛いのだ。気持ちが良すぎて辛い。ジンジンと熱くなって、ずうっと達したまま落ち着かなくなる。息をつく間もないのだ。昂ったままの体が宙に浮いたままで、気持ちがまったく追い付かない。
「アうぅっ、あ! ひィ、あッあ! あー!」
湿った空間に自分の叫び声がこだましていた。ままならない体を布団に投げ出して、わやくちゃの思考を放棄した。
薄らいでゆく意識の中で、最後に見えたものは。ジュダルの熱っぽい視線と、惚けた表情だった。
この日は土曜日で、朝早くから学校へ登校し、自由参加の補講授業に参加していた。土曜の朝は塾の自習室も混んでいることが多く、逆に学校のほうが空いていたりする。近くにコンビニもファーストフード店もカフェもないが、自分には不要だった。
授業は午前中までだ。空腹感を感じる頃に補講が終わるので、他の生徒は友達と昼食を食べに行ったり自宅に戻ったりする。自分も他の生徒らと同様、自宅へ帰ろうかと思った。家に帰れば兄が待っている筈で、手製の料理を食べられる。
しかしふと、ジュダルの顔が浮かんだ。
メッセージアプリに登録していた彼の連絡先を見つめて、暫し逡巡したのち、メッセージを送った。元々会う約束はしていなかったから、これはイチかバチかの賭けだ。起きているかも分からない。突然の誘いは迷惑かもしれない。
そんな心配は、しかし杞憂に終わった。校門を出た直後にメッセージの返信が届いたのだ。今から会えますか、と送ると、今から来るのか? と返ってきたので、はいそうです、と返した。
なら昼飯準備して待ってる、と秒速で返事がきた。
彼が口にしていた夢の話と白雄の話について、自分の中ではまだ整理がついていない。それに両者とも、自分の母親である玉艶のことをひどく警戒していた。白雄が言うならまだしも、ジュダルまで同じことを言うのは奇妙だ。自分は母親の人となりについて詳しく喋った覚えはない。何ならずっと前から知っていたかのような口振りが気になって仕方ない。
白雄は彼のことを敵か味方か判断つかない、と評している。ここで言う敵、味方、とは一体どういう意味なんだろう。白雄にとって誰が敵で、誰が味方なのだろう。そして白雄が言うところの敵とは、一体どんな危害を加えてくるんだろう。
彼ならそのあたりの事情も、もしかしたらお見通しかもしれない。両者に面識はない筈だが、元からの知り合い、あるいは因縁があるんだろう。自分は知る由もないのだが、この際だ。自分にもきっと、知る権利がある。
そういう真面目な話をしに、彼の家を訪れたのだ。白雄とジュダルを取り巻く事情を知る為に、あの扉を叩いた筈なのに。
白昼堂々と性行為に及んでしまった。兄には学校の自習室で居残りしてくる、と嘘を吐いてまで来たというのに。弟が昼間から淫行に励んでいると家族に知られたら、きっと卒倒されるに違いない。これは墓場まで持って行かねばならない禁断の秘密だ。
意識の遠い場所でテレビの音が聞こえていた。耳を澄ますと番組の内容は週末の天気予報らしく、晴れのち雨になるとキャスターが告げている。
「ああ、起きた?」
頭を傾けると何かにぶつかった。目を開けると間近にジュダルの顔があって、思わず叫びそうになった。
「んだよ今更。そんな驚くことか?」
頭の下に敷かれていたのは枕ではなくジュダルの腕だった。お互い何も身に着けておらず、さらさらした感触のシーツが肌に纏わりつく。これは後で丸洗いしないといけないだろう。
「まさか白龍から誘ってくれると思わなかったぜ」
「そ、そういうつもりじゃなくて」
「あんだけヨガってたくせに、どの口が言う」
空いていた手が腰回りを撫でて抱こうとするので、体を捩って逃げた。
「……これって、俺が変なんでしょうか」
「何が?」
「だってふつう、い、痛いじゃないですか。お尻を、その……」
「うん。絶対痛いだろうな」
「でも俺は、痛いだけじゃなくて、変になるんです。こんなの初めてなのに」
素直に抱いていた疑問と不安を吐露した。
さっきも物覚えが良いから早いとか、どうとか揶揄されていた気がする。記憶がおぼろげで、意味はさっぱり分からない。
「……初めてじゃねーよ」
「え?」
「したことあるからじゃね。相手俺だし」
「……何の話ですか?」
やけに澄んだ瞳で見つめてくる。からかったり、冗談のつもりじゃないのか。本気でそんな世迷い事を、彼は。
「……白龍、髪伸びたな」
おもむろに前髪を指で梳かれた。さっきまでの話は棚に上げるつもりだろうか。
「伸ばしてほしいと言ったのは貴方でしょう。それより、」
「もうちょっと伸びたら俺が結んでやるよ」
「はあ。それは、どうも……」
「俺も伸ばしててさ。もっと長くなったら三つ編みにしたくて」
「三つ編み?」
彼は自分の襟足を摘まんで、まだまだ短い毛束を見つめた。
「こう見えて結構似合うんだぜ」
「やったことがあるんですか?」
「多分。夢の中の俺はずっと三つ編みだった。こーんな長くてさ」
彼は大きく腕を伸ばして長さを示している。それはおそらく、現実的に考えたら無理がある長さだ。
「さすがに今は出来ねえけど、伸ばせたら白龍に結ってほしい」
「俺にそんな技量は」
「大丈夫。白龍はいつも手先が器用で、綺麗に整えてくれたから」
どこか懐かしむような声音と表情に、心臓がどきりと跳ねた。
「夢に出てくる俺とジュダルは、仲が良かったんですね」
「仲が良いも何も。俺は朝から晩まで白龍に世話されてたし、毎日ヤリまくってたぜ?」
「や、やり……」
「そういう才能があるんじゃねえの」
腰に纏わりついてくる手が臀部を揉みしだいて、乾きかけていた孔に触れた。
「それとも俺たちの相性がよっぽど良いのか」
「……」
「白龍はどっちだと思う?」
「俺は別に、どっちでも……」
そこまで言いかけて、乾いた指が孔に食い込んだ。息が詰まって、体が震える。
「そっちが聞いたくせに、素っ気ねえな」
「あっ、や、やめ……!」
「なあ白龍。本当は今日、何の用事でうちに来たんだ?」
浅く抜き差しされる指に意識が集中してしまって、うまく言葉が出てこない。言いたいことが纏まらず相手の顔を見つめるが、彼は不敵に笑うだけだ。
「まさかホントにヤリにきただけ?」
「ちがっ、ア、あう」
「じゃあ何の用だよ。正直に言えって」
「ゆ、ゆび、いじわるっ、あッあ」
目の前にある体を叩いたり蹴ったりして抗議すると、指はすんなりと抜けていった。
息を整えて、彼の顔を見た。相変わらずニタニタと不遜な笑みを浮かべている。
「ず、ずっと考えていたんです。貴方と俺の兄が、一体どういう関係なのかって」
「……」
「教えて頂けませんか? どうして俺の兄が貴方を警戒するのか、貴方が俺の兄の安否を気にしていたのか……」
彼は表情を変えない。しかし、ゆっくりと瞬く瞳の奥に異なる感情を見た。それはたぶん、明確な焦りだ。
彼はあくまで表情を取り繕っているだけなのだ。ポーカーフェイスとも言う。しかしその表情の下には、あらゆる感情が噴出しているんだろう。長い睫毛がひらひらと揺れるさまを、自分は黙って見つめていた。
「……お兄ちゃんには聞かなかったのか?」
「何となくですが、話したくなさそうな雰囲気でした。だから何か、俺の知らない事情があるんだと思って……深くは聞けませんでした」
「でも俺には聞くんだな?」
「……話したくない事情があるんですか?」
のらりくらりと論点を変えられている。質問に質問で返すのは彼の常套手段なんだろうか。
彼らしくない。分かりやすい動揺は手に取るように分かる。だからこそ違和感は強烈だ。きっといつもの彼なら、もっと上手く躱せるだろうに。
「聞かせてください、二人のこと」
「……話したら俺はどうなる?」
「俺の兄に会わせます」
瞬時に空気が凍り付いた。男は顔色こそ変えないが、言葉数は少ない。
「……向こうは俺に会いたくねえんじゃねーかな」
「いいえ。一度会って話がしたいと言っていました」
「……はは。そうかよ」
わざとらしくかぶりを振って、そう吐き捨てた。
「そんな怖い顔すんなよ。俺はどちらかと言えばお前らの味方だから」
「……?」
「玉艶が未だに生きていることが解せねえんだよ。それは白雄も同意見だろ?」
「それは……」
確かに白雄も母親の存在をひどく警戒し、敵視しているように見えた。母親の監視から逃れる為に身を隠すまでしている。兄が一体何をそこまで恐れているのか、自分にはまだ知らされていないのだが。
「たぶん白雄は俺と玉艶がグルなんじゃないかって疑ってる。まあ、昔は実際そうだったし」
「昔……」
「俺は玉艶勢力の駒で、がっつり肩入れしてたからな。お前らの家族が不運に見舞われたのも、俺が一役買ってるようなモンだ」
「俺たちの不運?」
ジュダルは上体だけ起こして、顔の横に手をつき、こちらを見下ろした。ぞっとするほど透き通った白い肌には、まるで生命力を感じなかった。枝のように細い腕に血管が浮いている。触れると生ぬるい体温が伝わってくる。彼は幼稚な触れ合いに鼻で笑った。
「俺の夢にも出てくる。白徳が亡くなってすぐに、白雄と白蓮も死んだ。いや、殺されたんだ。玉艶の指示で暗殺されてな。白龍、お前もその巻き添えを食らって瀕死の重傷を負った」
「……何の話ですか」
「どこかの遠い国で起きた、大昔の出来事だ。俺が見る夢は、俺じゃない誰かが見てきた景色、記憶の断片なんだと思う」
そこまで言い切って、彼は顔を近づけてくる。
「俺は当時玉艶の仲間で、白雄と白蓮の暗殺計画を知っていた。まだガキの頃だったから計画には直接参加しなかったけど……誰かが放った火が宮殿を飲み込んでゆく様を、俺は間近で見ていた。中でお前たち兄弟が死にかけていることを承知の上でな」
「ジュダル、貴方は」
「見殺しにしたんだぜ、俺。白龍だけは助かるかもしれないって何となく分かってて、でも白雄と白蓮は助からないだろうと思った」
「何故、そんな……」
「玉艶は国を丸ごと乗っ取るつもりだった。計画に差し障るお前の父親、その優秀な遺伝子を継ぐ兄二人を纏めて葬ったんだ。最終的には紅徳も傀儡にさせられてさ、用済みになった後は勿論、」
「ジュダル!」
自分は起き上がって、思わず叫んでいた。
「さっきから何の話を、そんな……! 死ぬなんて、滅相もない!」
「事実だぜ? 何なら白雄に聞いてみろよ。あいつが母親を極度に恐れることも、俺を警戒することも、今の説明で全部辻褄が合うと思うけど?」
「そんなの滅茶苦茶だ! 兄は母親に殺されると、本気で思っているとでも!?」
「ああ、そうとも。白徳が急逝したことで、白雄は確信したんじゃねえかな。これは偶然なんかじゃないって」
男は演技じみた所作で、軽薄な笑みを浮かべながら主張した。
「何の証拠もないのに。それじゃあまるで、俺の母が父を殺したみたいじゃないですか」
「……そうかもしれないって言ったら、お前は信じるか?」
「根拠も証拠もないのに、信じられません」
男の体をやんわり押し返し、床に落ちていた衣類を拾った。脱ぎ散らかした下着を穿いて、制服を着直してゆく。先ほどまでの茹だった頭はすっかり冷えて、それどころかいつもより冷静にさせられる。
彼の発する主張は机上の空論だ。たかが一個人が見た夢の話を、現実世界に持ってきて当て嵌めて、それで何になるという。登場人物の名前や立ち位置は似たり寄ったりらしいが、彼の作り話という可能性もなくはない。
「もう帰んの?」
「はい。馬鹿馬鹿しい話には付き合ってられません」
「白雄には会わせてくれねーの?」
「……」
今更会ってどうする。何のつもりだ。どんな話をする気だ。
背後から感じる気配に一瞥だけくれてやって、あとは背を向けた。
「……会ってどうするんですか」
「俺は別に話したいことなんかねーけどよ、あっちが会いたいって言ってんだろ? なら会わせてくれたっていいんじゃねーの」
彼もベッドから下りて衣類を身に着け始めた。出掛ける準備だろう。本気で家まで着いてくるつもりだ。
「会って、何を話すんですか」
「さあな。俺が知りてぇよ」
テーブルに置いたままだった昼食のゴミ(コンビニ弁当の器や割り箸、ペットボトル等)を纏めてゴミ箱に放り込んで、鞄を担いだ。おもむろについて来ようとする影には一切目もくれず、玄関へ向かった。
靴を履いて出ようとすると勿論彼も後を追ってくるので、自分は改めて彼の前に立ち塞がった。
「ジュダル。貴方は知りもしないでしょうが、雄兄さんはおそらく、貴方の味方になるつもりはないと思います」
「どうして?」
「雄兄さんは俺たち家族にこれ以上危害が加えられぬようにと、考えて行動している。それに対して貴方はまるで傍観者を気取って、どちらにも非協力的だ!」
「白龍、何をそんなに怒って、」
「貴方はどっちの肩を持つんですか!? 誰の味方なんですか!?」
気が付いたら肩で息をしていた。目の前の影は微動だにせず、感情が読み取れない。
やがて肩が震え始めるのが見えた。何事かと思ったのと同時に、空気が割れるほどの声量で笑い声が響き渡った。
「白龍、お前って相変わらずなんだな!」
「な……」
「白か黒でしか物事を捉えられない。どっちかずなんて許せない。そういう、良くも悪くも善悪をはっきりさせたいお前のメンドくせー性分……変わってなくて何よりだぜ」
彼は足音を鳴らしてこちらへ歩み寄ると、背中から肩へ腕を回してきた。茶化すような態度に苛つくが自分にはどうにも出来なかった。
「言っとくがな、少なくとも俺はあのババアに加担する気は毛頭ない。二度と御免だぜ」
「なら、兄の味方をすると?」
「……いいや」
ジュダルはにたりと卑しい笑みを浮かべる。
「俺は金輪際関わらない。敵にも味方にもならない」
「ど、どうして」
玉艶が気に食わないのなら白雄と手を取り合う道もあろう。ジュダル個人が白雄に対し因縁やわだかまりを抱えているわけではないと今の話で分かった。だから尚更だ。
「味方しろって、まさか白雄たちを匿えとか白徳の死因を調べろって言うんじゃねーだろうな? 俺はパスだぜ、メンドくせーもん」
「な、何とも思わないのですか。このまま玉艶の好きにさせてもいいと?」
「俺自身にも危害が及ぶなら考えモンだけどさ、今んとこはこのとおり平和だし? 白龍ともイチャつけるし?」
「何、馬鹿なこと言ってるんですか!」
胸の前に腕が回されると、反射的に撥ね退けていた。
「俺と貴方がどうだろうと関係ないんですよ! 俺の兄が困ってて……俺は助けたいけど助けられない。むしろ足手まといになってしまう。でも貴方なら」
「俺が白雄に恩を売れってか? それとも、暗殺に加担した罪滅ぼしをしろと?」
「どっちでもいいです、そんなのは」
改めて向き合うと、胡乱な視線に射貫かれる。
「俺は歯がゆいんです。もし俺が貴方の立場ならきっと兄を助けているのに、貴方はどうしてそこまで無関心で居られるんですか」
「フン。だってこんなの、見え見えの罠じゃねーかよ」
「罠?」
彼はやれやれと言いたげに頭を振った。
「玉艶はたぶん俺を探してる。なかなか尻尾を出さねえから、敢えて白雄を泳がせて俺をおびき出そうとしてんだよ」
「ま、まさかそんなこと……」
彼の口ぶりから察するに、玉艶との面識はまだの筈だ。この世のどこかに居ることは確実で、しかしどこに居るのかはお互いに分かっていない。
玉艶が仲間を探しているとして、彼が見つかってしまったらどうなるのだろう。本人は玉艶に靡くつもりはないようだし、これだけ反抗的にされたら手を取り合うのは不可能だ。利害が一致する気配もない。何故ならジュダルにとって白雄の安否など、取るに足らないことだからだ。
「……じゃあ、兄ではなく俺が標的にされたら、ジュダルはどうしますか?」
その瞳に映る自分の顔はどこか不安げだった。
「何が言いたい」
男の執心の矛先。本当に優先したいことは自己保身に走ることではない気がした。何故なら白雄の弟である自分に接触すれば、少なからず玉艶に近づいてしまうきっかけになり得るからだ。母親との雑談で日々の出来事を話せば、一発でバレるだろう。携帯アプリの通話履歴を覗き見されたら。家まで送ってもらうときに顔を見られたら。いくらでも玉艶に遭遇する危険性はあった。
勇気を振り絞って、彼に直接尋ねるしかない。どうしてそこまでの危険を冒して、接触を図ったのか。
「……お前じゃ玉艶の計画の妨げにはならない。白徳や白雄ほどの影響力はないだろうからな」
「そうじゃなくて。ジュダルをおびき出す為に、俺が餌にされたらどうしますか?」
「そんなの……」
言葉の続きを待っていた瞬間だ。
意識の外側から、ひどく聞き馴染みのある声が聞こえたのだ。
「……さっきから何の話をしているんだ? えらく物騒だな」
かつん、かつん、と鉄製の階段を上ってくる、誰かの足音がする。
「雄兄さん!」
段差の向こう側に見えた顔と目が合って、思わずそう叫ばずには居られなかった。
「……チッ。なんでここにお前が出てくんだよ……」
反射的に駆け出そうとした瞬間だ。背後の男に腕を引かれて、止められてしまった。振り返るとひどく不機嫌そうな顔が、相まみえたもう一人の顔を睨みつけている。
「白龍。隣の男は誰だい? お前が話していたお友達か?」
「ゆ、雄兄さん」
「へえ。アンタが白龍のお兄さんか」
白々しい二人の会話が頭上で交わされているのを、自分はただただ聞いていることしか出来なかった。両者の間に入って会話を取り持つことも、口出しをする余白もない。
「まさかお前の顔をこうして再び見ることになるとは思わなかったよ、ジュダル」
「そっちこそ。最後に見た時よりえらく老けたなァ」
「お前とは積もる話もある。こんなとこじゃなく、場所を変えないか?」
「積もる話? 恨み節でも聞かされんのかな」
「ああ、あとそれから」
白雄は大きく一歩を踏み出し、距離を詰めた。
二人が並ぶところは勿論初めて目にした。白雄のほうが背は高かったが、ジュダルも横柄な態度で警戒心を露わにしている。
「白龍を返してくれないか? とても怖がっているようだ」
「普段は優しいお兄ちゃんがこえー顔して俺に突っ掛かってくるからだろ。そっちが先に離れろよ」
白雄がこちらの肩を掴んできた。対するジュダルは腕を握ったまま離そうとしない。
これは一体、どういう状況なのだろう。
ひどく居心地が悪い。おそるおそる目線を上げると、両者ともにこちらの頭上を覗き込むようにして見つめてきた。
「白龍、こんな得体のしれない奴と一緒に居てもつまらないだろ。家に帰ろう」
「つまんねーのはそっちだろ。なあ白龍」
ジュダルが背を僅かに屈めて、そっと耳打ちしてきた。
「……ウチに残って、さっきの続きやろうぜ」
「つっ、続き?」
「そ。もっとスゲーこと、俺知ってっから。あとで教えてやるよ」
腕を掴んでいるのと別の手が、制服の上から背筋を這い上がった。わざとらしい手つきに体がびくりと跳ねる。
「す、すごいこと……?」
「うん。白龍なら絶対好きだと思うぜ」
背筋から首の付け根まで這った手のひらが、今度は腰を掴んだ。それは性行為を彷彿とさせる、力強いものだった。
「おいジュダル。この子に何を話してるんだ」
「別にぃ? 俺たちは二人で遊びたいよなって話」
白雄が両肩に手を乗せてきて、体の向きごと正された。
「この男に何を吹き込まれた? 何でもいいから兄さんに話してみろ」
「ゆ、雄兄さ」
「アハハ。友達との秘密をそう簡単に口外するワケねえよな?」
「ジュダル。お前はやはり……!」
白雄はこちらから視線をずらすと、ジュダルを睨みつけ、低い声で威嚇した。
「あの女の味方をするつもりか!」
「ハッ、まさか! 誰があんな女に協力すっかよ!」
それまでは軽薄な笑みを浮かべるだけだった彼だが、次の瞬間には大声でこう捲し立てた。
「俺はもう懲り懲りなんだよ、誰かに決められた運命を歩まされるのも! 俺の力を都合のいいように利用しようとする奴らも! 好き勝手に滅茶苦茶してくれやがってよ……今度こそ俺は俺の好きなように生きてみせるって、この夢を見始めて決心したんだ。だからもう誰も邪魔すんじゃねーよ」
「じゅ、ジュダル」
「白雄、お前さんは大変だな。だって生まれた時からあの女の管理下にあって、命からがら生きてるようなモンだもんな。生きた心地はしねーだろうが、精々逃げ回ってろよ」
男がそこまで言い終えた瞬間だ。体がふらついて、たたらを踏んだ。上半身ごと力強く引き寄せられて、兄の手が離れてしまったのだ。衝撃で男の体に凭れかかったが、彼は何も言わない。
「安心しろよ。白龍の安全は保障しといてやる。少なくともお前の傍に置くより俺のトコに居たほうが、あの女からは手出しできねー筈だぜ。なんたって、俺はまだ見つかってねーからなぁ」
スラックスの上から臀部を撫で上げられ、思わずあっ、と小さい声が漏れた。
「……白龍?」
「に、兄さん」
「じゃあな白雄。くれぐれも弟を悲しませないよう、なるべく長生きしろよ」
怪訝な表情を浮かべる兄が、信じられないものを見るような目でこちらを見つめていた。
違うんです、雄兄さん。
俺は兄さんが想像するような悪い弟ではないんです。
雄兄さんや蓮兄さんたちが昔から口酸っぱく言っていた、勉強だけはしっかりやっておけ、という言いつけを守り、加えて姉さんにも家事全般を叩き込まれて、今では一人で何でも出来るようになりました。学校の授業も分からないところはないし、課題も全部提出していて、試験の点数も悪くないです。成績はむしろ良いほうで、中学卒業後は都内の有名な進学校に通ったほうがいいと、担任から太鼓判を押されました。
学校では友達はあまり作れませんでしたが、欠席はせず毎日通っているし、唯一の習い事の塾だって欠かさず通ってます。押し付けられた文化祭の実行委員も、乗り気ではありませんが一応役目は果たしています。
掃除、洗濯、料理、何でもこなせます。どれだけ面倒でもサボらずやるし、家の中は常に綺麗です。料理だって、多少複雑な調理方法でも出来るようになってきました。毎日やっていくうちにレパートリーも増えて、学校に持っていく弁当も毎朝自分で準備しています。誰の手も借りず、俺は一人で生活をこなせます。
俺は兄や姉が居なくとも、立派にやっていけるくらいには成長しました。まだ中学生だけれど、自分でお金を稼ぐことは出来ないけれど。
だから兄さん、どうか失望しないでください。不審に思わないでください。ジュダルとはつい最近仲良くなったただの友達で……
玄関に押し込まれてすぐに床に押し倒されて、着衣を乱された。服を脱がしにかかろうとする両腕を何とか阻むが、布を強引に引き千切ろうとするので、抵抗しようにも出来なくなってしまった。私服や下着だけならまだしも、制服を破られたら学校に着て行けなくなる。
「じゅ、ジュダルっ、あ! あうっ、あ」
大声を上げて抗議したが、すぐさま口を手のひらで塞がれた。
「まだ外に白雄が居るかもしれねぇ。その声聞かせてーのか?」
「ジュダル、でもっ俺、おれ」
「いいから黙って感じてりゃいいんだよ」
服の隙間から入り込んで来た手が性感帯を擽る。性器は勿論、胸も尻も、それ以外の擽ったいと感じる部分も余すことなく全てだ。
「お利口で自慢の弟が、実はこんなスケベなんだって知ったら……お兄ちゃん、どんな反応すんだろうな?」
「あッやだ、やだっ、あ! あうっ、ひゃ」
「ほら、言えよ。どこが良いんだっけ」
尻の窄まりに入り込んだ指が、内臓を擦り上げてくちゃくちゃと掻き回した。
「アっ、あんっあ! そこ、そこっ」
「ん? 自分で良いところに当ててみろよ」
指が増えて、内側を押し込んだ。かき乱された思考では正しい行動を選ぶことも出来ず、もはや男の言いなり状態だ。
寝そべったまま腰を揺らしたり、少し持ち上げたりして、自分で弱い部分を探した。彼は指を動かそうとしないから、縦や横に揺らして、自分で刺激を調整するしかないのだ。
「あ、ッここ、ここ好き、すき」
「うん、そうだな」
尚も彼は指を動かさず、この状況を楽しんでいるようだ。全身に隈なく注がれる熱い視線に当てられてか、胸の奥がずくずくと濡れてゆくのが分かる。
「ジュダル、さわ、さわって、ください」
「どこを」
「どこでも、ぜんぶ、全部……」
膝を抱えて股を開くと、彼は満足げに笑った。
「白龍。お前は毎回、俺の想像を超えてくる」
「……?」
「そんな誘い方、誰に教わったんだ?」
冷ややかな声が耳元へ吹き込まれた。次の瞬間には首元に鋭い痛みが迸って、喉を反らして叫んだ。
「……お前は俺に、どっちの味方をするのかと聞いたよな」
「へ……」
「そういうお前こそ、俺と白雄、どっちの肩を持つ気だ? このまま俺にヤラれて、家には戻らねえ気か?」
せっかく直した衣服を再び剥がされて、剥き出しになった下半身に不埒な手が忍び寄る。膨らみ始めていた性器を握られ擦られると、本能がそうさせてしまうんだろう。気持ちが良くて何も考えられなくなるのだ。
「どっちの味方かなんて、そんなの……」
「人には聞くくせに、自分は棚に上げる気か?」
性器の先端を指でいじくられて、背筋が震えた。
「これされるの好きだもんな」
「あっ、はう、は、はい……」
「ずっと俺の家で、こういうことしとく?」
「え、えっと……」
判断力が鈍った頭では何も纏まらない。彼がどうして引き留めようとするのか、白雄を警戒するのか。そして結局のところ、彼が玉艶をそこまで嫌う明確な理由も、自分は知らされていない。
しかし甘美なご褒美に踊らされて判断を誤ってはいけない。自分には帰るべき家があって、大事に思う家族が居る。
「……俺は自分の家に帰ります。帰らせてください」
「……そうか、そうだな……お前はそういう奴だもんな……」
男はそう呟くと体を離し、こちらをぼんやりと見下ろした。その瞳に浮かぶ感情は諦観という二文字がぴったりで、寂しげに揺らいでいた。
結局何も分からないまま帰路に着くことになった。既に夕飯時は過ぎており、外は真っ暗だ。やはり制服のまま夜道を歩くのは良くないからと彼に送ってもらうことになった。数日前と殆ど同じシチュエーションだ。
ひとつ違う点があるとすれば。この気まずい空気を包む沈黙があることだろう。自分は隣を歩く男の顔を見ることも出来ず、暗い足元か頭上の星空を黙って眺めていた。
「明日は雨だろうな」
「え?」
「雲の流れが速い。明日はたぶん大雨になる」
釣られて空を見た。言われてみれば確かに、西側の空にかかる雲が分厚く広がり、流れが速いように見える。
どこかよそよそしい会話は長続きせず、すぐに途切れて終わった。途端にびゅう、と吹いた強い風が髪の毛をかき混ぜて、ぐちゃぐちゃに乱していった。
「まだ伸ばしてくれてんの、それ」
乱れた髪型を直すみたいに、優しい手つきで後頭部を撫でられた。はっとして顔を上げると、月明りに照らされた赤い瞳が煌いている。
「貴方が伸ばしてほしいと言ったから」
「うん。でも、そろそろ鬱陶しいだろ?」
「……伸びたら結んでくれると」
顔を見つめていると、彼は照れ隠しでもするみたいに目を逸らした。
「そんな約束さっさと忘れちまえよ」
「忘れませんよ。貴方にとっては、何か……重大な意味があるんでしょう」
名残惜しそうに遠ざかってゆく手のひらはそのまま、ズボンのポケットに仕舞われてしまった。
「知ったような口利きやがって。ほら、もう家に着くぞ」
彼が顎でしゃくった先に、明かりの点いていない一軒家があった。すべての階、すべての部屋の窓から照明が消えている。
もう兄と姉たちは実家から出てしまったんだろう。とくに白雄や白蓮に関しては、次に会えるのはいつになるか分からない。もっと話を聞いておくべきだった。おそらくジュダルと共通している夢の話、そこで見てきた兄の記憶とは一体何なのか。
ジュダルの証言しか聞けていないが、兄の夢はきっと悲惨なものだ。玉艶と紅徳の策略により短い生涯を終えることとなったらしい、誰かの記憶。それを繰り返し何度も何度も、夢を通して見続けていたのだとしたら。
自分は兄に会えず寂しい思いをしていた。幾度も連絡を取ろうとしても不発に終わる。姉も同じことを言っていた。そうしてゆくうち、自分たちは兄に見捨てられたんじゃないかと思うようになっていた。同じ家族だというのに、引っ越し先も就職先も詳しくは教えてくれなかった。その時点で不審に思っていた。
新生活が始まって、新しい出会いが増え、そこで充実した日々を送っているうちに。実家に暮らす家族への愛着や恩義など、とっくに忘れているんじゃないか。そういう類の疑念が芽生えていた。
だがこれは一方的な決めつけだった。兄の抱える不安や恐怖心は、誰にも理解されず共有もできない。だから彼は一人でこれらすべてを背負い、玉艶の動きを窺いながら、束の間であるが戻ってきてくれたのだ。
「ジュダルの家族は今、どこに居るんですか?」
「俺?」
「貴方こそいつも一人であの家に住んでるじゃないですか。たまにはご実家に帰られたり……」
「さあ、知らね。俺にはそういうのないし」
玄関の柵に手をかけたところで振り返っていた。男は青白い月の光を浴びながら飄々と答えてみせた。
「気づいたときには一人だったから、別に。何とも思わねえし、どうでもいい」
「ジュダル」
「じゃあおやすみ」
「……ジュダル!」
顔の横で軽く手を振る男を、自分は引き留めてしまった。
「す、少し、上がって行きませんか」
「……どういう風の吹き回しだ?」
怪訝な顔をする男は、暗闇に聳え立つ一軒家を見上げていた。
小さいがバルコニーを兼ねた庭があって、母親の趣味で玄関先にはプランターに植わった植木鉢がいくつかある。家は三階建てで、兄弟それぞれに一人部屋が存在する。兄弟はみな出て行ってしまったから、空き部屋は三つも存在する。
「今朝まで家族と過ごしていたのに、急に一人になるのは、寂しいから……」
「でも、そういうのには慣れてんじゃねーの」
自分で身の回りのことはひととおり出来る。家事も料理もどんと来いだ。それは最早自分の口癖だったが、これは心細さを紛らわせる為の口上に過ぎない。
「つ、強がってただけです。本当は俺、家に一人で居るのも、一人でご飯を食べるのも、ずっと寂しくて……」
抱きすくめられていた体は、地面からほんの少しだけ宙に浮いていた。つま先立ちをして上を向くと、濡れ羽色の髪の毛しか見えなかった。あれだけ煌々と輝いていた月の形も、影も、どこにも見えなかった。