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Previous Singularity 10話

 その日の夜、寝る前に布団の中でジュダルにとあるメッセージを送った。
 ――俺の兄さんが二人、家に帰ってきた。
 ――姉さんも一緒だった。母さんは居ない。
 ――今は三人、別々の部屋で寝てると思う。

 時刻は日付を跨いでおり、メッセージを送ったところで返事が返ってくるとは思えない。
 ただジュダルは兄二人だけに限らず、自分の家族について何か知っている様子だった。とても気掛かりだし、自分のことのように心配をされてしまった。とくに兄の安否については血相を変えて、何度も何度もしつこく問われてしまった。
 彼が見る夢と現実世界が地続きな筈がない。ないのだが、詳しく教えていなかった家族構成だったり名前までも言い当てられると、たかが夢ごときに、と切り捨てることもできない。彼はまだ誰も知らない未来や真実を、夢を通してすでに見てきている可能性もあるのだ。
 ひとまず今は、彼が心配していた白雄と白蓮が息災であること、久々に顔を見て話せたことを報告しておいた。
 そして端末の画面を消して、明日に備えて目を閉じようとした。

「……あれ」
 一旦消したはずの画面が再び点灯していた。微かなバイブ音を伴っている。液晶の表示を確認すると、ジュダルからの着信を報せていた。
 慌ててイヤホンを接続させ、受話ボタンを押した。話し声が外に聞こえるのは良くないから、頭から布団を被って、なるべく声量を落とした。
「もしもし?」
『おお、夜遅くにわりぃな。もうすぐ寝る?』
「明日も学校なので」
『そうか。なら、手短に話すわ』
 一方的に話してくる内容に耳を傾けて、自分は口を閉じた。
『白雄と白蓮が生き……元気にしてたみてーで、それは良かったな。何か変わった様子はなかったか?』
「いえ、何とも……ただ話したいことがあるみたいで、明日の朝に少し時間が欲しいと」
『ぎょく……母親には連絡入れたのか?』
「入れようとしたら、何もするなと言われました。母さんには帰ってきたことを知らせたくないようで」
『……そうか』
 男は一呼吸置いてから、話を始めた。
『白龍お前、家族の前で俺の名前を出したことはあるか?』
「え? ジュダルの名前ですか」
『そうだ』
 質問の意図は分からないが、こちらが答えないと話は先に進まなさそうだ。自分は正直に、名前は出したことはない、と返した。
「ただ、最近友達が出来たという話はしました。帰りが遅くなったり、塾以外の用事で出掛けることが増えているので。姉はそれで納得してくれました」
『ならいい。ただ、俺の名前は出さないほうがいいかもしれない』
「……どうして?」
 過去に事件や事故を引き起こしたとか。身内に犯罪者が居るとか。のっぴきならない事情でもあるんだろうか。本名ではなく偽名を用いて生活をしているのも気にはなっていた。
『白雄と白蓮、もしかしたら俺と同じかもしれねえ』
「同じって」
『俺と同じ不思議な夢を見ていて、それが現実世界と無関係じゃねえってことに……実はずっと前から気づいていたのかも……』
「え? 俺の兄さんたちが?」
『俺はお前と出会うまで思いもしなかったけど、白雄と白蓮はこの仕組みにとっくに気づいていて。だから運よく生き延びて……』
「生き延びるって、どういう意味ですか?」

 そう問いかけたのと同時だ。
 寝室の扉が無言で開かれて、廊下の外から一筋の光が差し込んでくる。

「雄、兄さん?」
「こんな遅い時間に誰と喋っているんだ、白龍」

 頭まで布団を被っていた筈だ。声量も落としていた。夜遅いし、あまり人に聞かれたくない話題だった。なのに、どうして兄は気がついたんだ?
 そう疑問に思うや否や、耳に嵌めていたイヤホンから男の声が聞こえた。
『おい白龍。どうかしたのか?』
「あ、いや、その」

「白龍、誰と喋ってるんだ」

 扉を開けっぱなしにして、兄がベッドまで歩み寄ってくる。薄暗くて表情は読み取れない。だが無機質で強張った声色から察するに、たぶん機嫌は良くない。むしろ怒っているようにも聞こえる。
「友達だよ、姉さんから話も出ただろ」
 布団の中で通話を切り、アプリを終了させた。履歴にはジュダルと通話した記録が残っているが、アプリから直接見られなければバレやしない。
 名前はどうか伏せてほしいと言われた。きっと都合が悪いんだろう。どういう意味で、理由があって、彼がそう乞うてくるのかは結局聞けなかったが。
 たとえばの話。ジュダルと兄たちは夢の世界で仲が悪く、争い事に発展することもあったので、敢えて名前を知られたくない、とか。ジュダルは白雄と白蓮の安否を気にかけていたから、極度に嫌っているようには見えなかったが。当人らの事情など、自分は推察することしかできない。
「友達って、どこの友達だ?」
「塾の友達。勉強が得意で、お喋りで明るくて、楽しい人だよ。悪い奴じゃないから」
「なら次会う時伝えといてくれ。夜更かしは体に悪いから長電話は止めろと、家族に言われたってな」
「う、うん……」
 画面を暗くしたスマートフォンを枕元に置き直し、兄の言葉に深く頷いた。
 話の内容を聞かれたのは一瞬だった。今のやり取りで、自分がジュダルと話していたと断定するのは兄ですら不可能だろう。通話履歴を見れば一発だが、この状況で彼がそこまでするとは思えない。
「本当に悪い奴じゃないなら、こんな夜更けに電話なんてしない。白龍も付き合いはそこそこにして、もっと警戒しろ」
「雄兄さん、なんか怒ってる……?」
 ベッドの端に腰かけた兄の顔を見上げた。彼は息を吐きながら首を振った。
「すまない。別に怒ってなんかない。ただ少し、その……」
「……心配、させてしまった」
「白龍」
 枕の下に隠したスマートフォンから意識を逸らして、兄を見た。彼はずいぶんと疲れ切った表情をしていて、こちらが逆に心配になる。
「顔色悪いよ。実は体調が悪いとか」
「いいや、俺や白蓮は元気だ。白瑛や白龍には散々心配と迷惑をかけてしまったから、とくにお前は一人きりが多くなって寂しかっただろう」
「みんな忙しいし仕方ないよ。俺だってずっと家に居るわけじゃないし、俺なんかより兄さんたちのほうが、ずっと……」
 本当は、どうして一度も連絡をくれなかったんだ、とか、ずっと無視し続けてたのは何故だ、と問いたかった。けれど、すっかり萎縮している兄の姿を見ていると、問い質す気も失せてしまう。
 過ぎ去った時間は取り戻せないが、これからどうやって過ごすかは自分たちで決められる。寂しい時間を穴埋めするみたいに、今後はずっと傍に居てくれたら、あとは何でもいい。
「これからは会えるんだよね。なら、俺は」
「白龍。この話は明日、改めてしようと思っていたんだが、……」
 ふと重ねられた手を握られた。真っすぐにこちらを見つめる藍色の瞳が、暗闇の中でも鮮明な光を放っている。
「俺と白蓮がここに居られるのは週末までで、また暫く家を出る。だから、また会えなくなる」
「暫く? 暫くって、いつまで?」
「分からない。数か月で済めばいいが、何年もかかるかもしれない」
「ど、どうして?」
 目の奥が熱くなって、声が詰まった。
「俺や、白蓮からは何も言えない。ただお前たち二人を見捨てるわけじゃないんだ。何を言っても説得力はないかもしれない。けれど俺たちも、お前たちが今の生活を続けられるよう方法を模索している最中だ。すぐそばに居る悪い奴から、少しでも危害が及ばぬように」
「悪い奴……」
「そうだ。今、俺たちが居ることで危害が及ぶかもしれない状況なんだ。だから俺たちはなるべくお前たちに近づかないよう、距離を取っている」
「そっそんなの。俺は平気だよ、自分の身くらい自分で守れるし……家事も料理も掃除だって、一人で何でも出来るし」
「……頼もしくなったな、白龍」
 頭を撫でられたのはいつぶりだろう。もう中学生にもなるし、男だし、ふつう嬉しくないに決まってる。けれど、兄の優しい瞳と声にささくれだった心が解けてゆき、温かい指先に身を委ねたくなるのだ。
「俺もついてく。どこにでも行くよ。学校も塾も、行けなくなったって構わないから」
「白龍」
「俺は兄さんたちと……家族みんなで一緒に居るほうが楽しいよ」
 頭に置かれた手に縋りついて、顔を伏せた。
 こんな我儘は聞き入れてもらえないだろう。だが万が一にでも、心を揺さぶられた兄がこの無茶な要求に前向きな答えをくれたら。一縷の可能性に望みを託して、自分は必死に神に祈った。
 だがこの世界には初めから神や仏など存在せず、あるのは厳しい現実だけだった。
「お前は一緒に連れて行けない。ここに残れ」
「雄兄さん」

 冷たくて固い声だった。兄も心を鬼にしているんだろうか。降り注ぐ声色は冷たいのに、触れられた指先はどこまでも優しいだけだった。
「せめてもの保険として、俺たちが信用している伝手の連絡先を教えておく。何か異変があったり、相談事があればそこへ連絡するといい」
「つ、伝手?」
「ああ。母さんの再婚相手との子供、その長男だ。名前は練紅炎という」
 手渡された紙切れには名前と090から始まる電話番号が記されてあった。
「兄さん、あっちの家族と交流があったの?」
「まあ色々あって。向こうは三人の男兄弟なんだけど、末っ子は母さんから生まれた子じゃない」
「再婚相手の連れ子ってこと……?」
「いいや、連れ子ではないな。末っ子だし、時系列がおかしくなる。まあ、話すと長くなるからそういうものだと思っていい」
 要するに再婚者同士の結婚、というわけだ。何だか話が俄然ややこしくなってきた上、渡された紙切れを見てひとつの疑問点が浮かぶ。
「どうして俺たちと同じ苗字なんだろう。母さんの旧姓か再婚相手の苗字を名乗るべきじゃ」
「母さんの再婚相手は俺たちの父さんの弟に当たる人だ。名前は紅徳」
 えっ、と大きな声を上げそうになった。寸で兄が人差し指を口の前に立てて、しい、と注意を促した。
「あちらの家族も、子供たちは比較的まともで話も通じる。とくに紅炎は長男だからしっかりしてる。問題は母さんとその再婚相手だな」
「……問題って、どういう」
「白龍は知らなくていい」
「なっなんで!」
 ここまで話を打ち明けてくれて、どうして急に突き放すような言い草をするんだ。突然冷たい態度を取ってきた兄に、自分は猛抗議した。
「俺も知りたい。兄さんたちが何に悩んでて困ってるか、俺も一緒に悩みたいよ」
「有難う。でも俺も巻き込みたくないんだ。もう二度と家族がバラバラになるようなことは、あってはならないから」
 もう二度と。声を低くする兄の表情は窺い知れない。暗がりの室内で伏せられた顔は、何だか懺悔をしているようにも見えた。
「そうだ、白龍。ある人の名前を知っているか教えてほしくて」
「ある人?」
 持ち上がった顔をじっと見つめて、言葉の続きを待った。
「……自分の名前をジュダルと名乗る男だ」

 心臓がどきりと跳ねた。
 動揺が悟られぬよう、慎重に言葉を選び、声色を取り繕った。

「じゅ、ジュダル? 聞いたこと、ないよ」
「……そうか。ならいいんだ」
「……その人も、悪い人なの?」
 震えそうになる声をゆっくり紡いだ。悪い人、が意味することが何なのか、自分でもよく分からなかったけれど。
「どうだろう。味方か敵か、俺も考えあぐねてる。あいつは他所の事情に深く突っ込むタイプでもないから」
「じゃあ、良い人なの?」
 白雄は膝の上で握り拳を作った。表情は険しく、苦虫を?み潰したようだ。
「良い奴ではない。その時々の状況に応じて有利な方に味方する。あるいは損得勘定で動くから、簡単に他人を裏切ったりする」
「……」
「敵に回すと厄介なんだ。アレはああ見えて器用で世渡りが上手い。野放しにするのも気が引けるから、見つけたらすぐにでも顔を合わせて話がしたい」
「雄兄さんは、その、ジュダルって人に会いたいの」
「ああ。今どこで何をしているか、そもそも生を受けているかさえ分からないんだが」
 そこで一旦息をついて、兄が首を振った。
「まあ、いくらでも偽名は使えるし、名前はアテにならないな。もし身近で気になることがあれば教えてほしい」
「うん……」

 兄はそこまで話を終えると立ち上がって、話を長引かせてすまない、と頭を下げてきた。
 むしろこんな重大な話を早朝に聞かされたら、学校へ行くに行けなくなるだろう。今聞けてよかった、と答えると、彼は申し訳なさそうな顔をしていた。
 扉が閉まる音が聞こえて、足音が遠ざかってゆく。そこまで聞き終えたところで、自分は再びスマートフォンの画面を起動させた。
 通話アプリの履歴、一番上に残っている。ジュダル、という名前で登録されている男。兄が気掛かりそうに話していたのもジュダルという人だった。

 ますます話が分からなくなってくる。だってたまたま通っていた塾で出会った、講師のアルバイトをしている高校生だ。友達になってから、少しの日を経て、恋人になった。

 彼が良い人か、悪い人かなんて、自分の尺度だけでは測れない。傍から見れば年下に性交渉を強いてくる悪い男、と評されるんだろうか。だが自分にとっては、ただの悪い人には思えないのだ。
 自分と同じ寂しさ、鬱屈、閉塞感を持っている人。地に足がつかなくて、どこに行っても居場所がないと感じてしまう、ひとりよがりな一面も。全部理解できるし、同情もするし、愛しいとも思う。

 時計の針を今一度確認して、考え事は止めにした。日付を跨いで一時間は経過している。明日寝坊してしまったら兄に申し訳ないし、今後一切夜半に出掛けるのは禁止にされかねない。
 自分は数回深呼吸して、目を固く閉じた。そうすると、どこからか忍び寄ってきた睡魔に意識をすぐさま攫われて、深い眠りの縁に落ちたのである。



 翌朝、朝食を準備しにリビングに下りると、既に起床していた兄と姉たちがダイニングに集っていた。
 テーブルには真っ白の陶器の皿に、焼きたてのトーストが一枚と、小鉢のグリーンサラダ、牛乳に浸されたコーンフレークが用意されてあった。他の三人は食べている途中のトーストから目を離して、こちらに振り向いてくる。
「おはよう白龍。冷めてしまう前に食べてくれ」
「寝坊せずに起きれて偉いな」
「今日は放課後に塾はあるの?」
 口々に発せられる言葉に右往左往しつつ席に着いた。用意されてあるプレートを覗き込んで、思わず息を飲む。人に用意された朝ごはんを食べるのは一体いつぶりで、家族と大勢で食卓を囲むのはいつが最後だったか。
「今日は塾があるから、帰ってくるのは八時を過ぎると思う」
「じゃあレンジで温め直せるものを作っておこう」
「い、いいよ。俺、自分で作れるし」
「遠慮しなくたっていいじゃない。兄さんの手料理を食べれる機会なんてなかなか無いんだから」
「そうそう。雄兄の機嫌が良いときじゃないと食えねえんだから」
「白蓮」
 白蓮の軽口を咎める白雄の鋭い声に、一同は思わず笑い声を零した。
 優しくて和やかな時間だった。いつもだったら横着をして、野菜ジュースで生の食パンを胃に流し込むだけの朝食だった。椅子に座ってゆっくり食事を摂ることも、自宅で他人と時間を過ごすのも、なんだか久々の体験だ。
「白龍、まだ時間はあるか?」
「うん。十五分くらいなら……」
 平らげた皿を重ねながら返すと、少し話がしたいと白雄に呼び出された。食器類の片付けは姉に任せることにして、自分は昨晩と同じく自室で白雄と二人きりになった。

 ベッドに腰かける自分と、学習机用の椅子に座る兄が向かい合った。階下からは姉と次男の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「俺たちの母さん……玉艶について、俺が知っていることを少し話しておこうと思って」
 兄はそう口火を切ると、淡々と話を始めた。
「俺たちの父さん……白徳から俺が聞いた話なんだが、母さんは俺と白蓮を産むまではごくごく普通の、家庭的な優しい女性だったらしい」
「……?」
「しかし三人目の白瑛を産んだあたりから、人が変わってしまったんだと。気が強く、我儘で、家の事より仕事ばかりを優先するようになり、自宅に帰らない日もしばしば増えていったらしい」
「……どうして?」
 問うてみたが、兄は何も答えない。それどころか、苦々しい表情を浮かべて言葉を続ける。
「再婚相手の紅徳との間に産んだ紅炎は俺や白蓮より年下で、白瑛より年上だ。おそらく白瑛を産むより少し前に、異変があったんだろう」
「異変って?」
「玉艶にとって白徳の存在が目障りに……邪魔になったんだ」
 え? と目を瞬かせた。耳を疑う発言に、暫く何も言えなかった。
「俺たちの父さんは仕事中に事故で亡くなったと聞かされているが、あれは違う。玉艶と紅徳が企てて、父さんは殺されたんだ」
「ど、いうこと?」
 白雄は立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。自分は言われた話がまったく頭に入ってこず、というより理解が追い付かず、頭の中は真っ白だった。
 思わず後ろに後ずさるが、白雄に両肩を掴まれて、目を合わせられる。
「いいか白龍。この話は俺たち兄弟だけの秘密だ。他人、ましてや母さんの耳に入りでもしたら、只事じゃ済まない」
「只事って……何言ってるの、兄さん」
「玉艶の次の狙いは俺たち、白雄と白蓮だ。父さんが亡くなった本当の原因を知っている俺たちを口封じする為に、あらゆる手段を講じてくる。俺たちは玉艶の目から逃れる為にこの家から出て、連絡を断っていた。白龍と白瑛は何も知らないから玉艶も手出ししてこないだろうし、現代社会において人一人を消すのは至難の業だ。昔とは勝手が違う。今時暗殺なんかが罷り通るほど、この国の治安は腐敗していない」
「兄さん、何の話をしてるの。暗殺って、何」
「今はまだ分からなくていい。ただ俺たちがそういう状況に置かれていること、玉艶がただの母親じゃないことは、白龍も念頭に置いてほしい」

 そこまで言い終えて、白雄が身を離した。
 険しい顔つきに怯えていると、彼はことさら表情を和らげて頭を撫でてくれた。
「朝から怖い話を聞かせてすまないな。でも俺たちの事情を知らないままだと、白龍はもっと辛いだろう。なるべくお前や白瑛を巻き込まないよう、考えてはいるんだがな」
「分からないよ、俺。兄さんが言ってること、何もかも」
「……」
「母さんは確かにちょっと冷たいし、俺たちには構ってくれないけど、でも……」
 目に浮かびかけた涙を指で拭った。
「俺が小さい頃は可愛がってくれたし、よく遊びに連れて行ってくれて。料理は家族で一番上手いし、俺と違って明るくて友達が多くて」
「……」
「父さんが亡くなったとき、母さんも一緒に悲しんでたよね……でも、それは演技だったってこと? 母さんが、その紅徳って人と殺害を企てたのなら」
 自分が物心ついて間もなくして亡くなった実の父の思い出は少ない。兄や姉の話を通じて父親がどんな人だったかを知るばかりで、直接その人となりを知るすべは、今はもうない。
 だからこそ悔やまれる。自分は兄弟たちの背を追い、母親の言うことを信じて、多少の不信感は抱きつつも生きてきたつもりだ。
 仕事で忙しい母親の邪魔をせぬよう、足を引っ張らぬよう、家事はひととおり身に着けた。早くに出て行ってしまった兄弟たちの助けは借りられない。弱音を吐く相手も居ない。寂しくないと言えば嘘になるが、ここまで育て上げてくれた母親に対し、自分なりに恩を返しているつもりだ。
「母さんにとって俺たちは邪魔なの? 白徳の子だから? なんで兄さんたちが隠れて過ごさないといけないの?」
「……」
「兄さんの話が本当なら、警察に相談しようよ。それで保護してもらおう。そのほうが安心できるし、母さんが本当に悪い人なら捕まえてくれるよ」
「……白龍」
 おもむろに伸びてきた両腕に体を抱き込まれていた。力強い腕に包まれて、体は身動きひとつ取れない。
「俺も現代の法規に則って、彼女には司法の場で裁かれてほしいと思っている。だがその為には準備が必要だ。先走って下手を踏めば、あの女は永遠に出し抜けない。それどころかこちらが危険に晒される。慎重に証拠を集めて、味方を作らないといけない」
「味方……?」
「さっき連絡先を教えた紅炎は俺たちの協力者だ。俺と同じく玉艶に不信感を感じて、彼女の身辺を探ってくれている」
 制服のポケットに捻じ込んだ紙切れの存在を思い出した。どんな人なのかは知らないが、兄がそこまで太鼓判を押すのならよほど信頼できる人なんだろう。
「そろそろ時間だな。白龍、気を付けて」
「うん……兄さんも、気を付けて」
 身を離して顔を上げると、彼は柔らかく微笑んでいた。しかし力が入ったままの腕は強張ったままで、兄の焦りや恐怖心が透けて見えた気がした。



 その日の放課後、定期的に呼び出される文化祭実行委員の集まりに出席するよう依頼されたので、仕方なく顔を出した。だが今日はこのあと塾の予定がある。十分、十五分くらい座っておいて、あとは抜ければいいだろう。他の生徒もさほど熱心じゃない。そう気楽に考えていた。
「そうだ。今週末の金曜夜、他のクラスの実行委員との交流を兼ねて食事会を開こうと思うんだが。みんなの予定はどうかな」
 担任が唐突な提案を出してきた。他の生徒らはみな首を傾げて、何故急に、と言いたげだ。
「他のクラスと情報交換、および親睦を深める為にもだ。せっかくみんなで行事を作り上げるなら意思疎通は大事だろう。見ず知らずの他人よりも顔見知りのメンバーでやるほうが盛り上がる」
 妙に熱血な教師に他の生徒らは欠伸を漏らしたり、明後日の方向を向いていた。正直言って面倒くさい。みな口には出さなかったが、考えていることは同じだと思う。
「……先生。わたし、金曜日出席できますよ」
「おおそうか。他に出てくれる奴は居ないか?」
 とくに誰も反応を示さず、みな俯きがちだ。
「白龍くんはどう?」
「……え?」
 声をかけてきたのは件の女子生徒だ。実行委員が発足してからたびたび声をかけてくるようになった生徒。他の生徒は消極的で手伝ってくれないから、と零しながらこちらに尽力を求めてくる。
 選ばれてしまったからには最低限協力はするが、自分もあまり乗り気でないのは確かだ。そもそも学校行事なんて、目立ちたがり屋か内申点を稼ぎたい連中だけで盛り上がればいい。自分のような日陰者にスポットライトを当てる必要はないのだ。
「白龍くんは積極的に手伝ってくれるし、他のクラスの委員とも協力してくれそうだから、参加してみてもいいんじゃないかなって思うの」
「えっと、俺は……」
「そうか。なら是非とも出席してくれないか。人数は多ければ多いほど盛り上がる」
「あの……」
「せっかくの機会だ。たまには大勢の輪に入って交流を深めるのもいい刺激になるぞ」
「……」
 担任の当てつけみたいな言い草が気に障る。まるで、ふだんは周囲の輪に溶け込めず孤立していると指摘されているみたいだ。事実なので言い返す余地はないのだが。
「すみません。今週は別の予定が……」
「白龍くん、放課後は塾多いもんね」
「そうなのか。まあ、急に誘ったのはこちらのほうだし仕方ないな」
 担任は腕を組みながら頷くと、他に参加したい生徒は居るかと声を掛けた。だが返事は芳しくなく、結局その女子生徒だけが自分たちのクラスから参加することになった。

 その後、とくにこれといった議題もないので(何故なら出し物が展示物のみだからだ)、すぐにお開きとなった。
 それぞれが教室を出て行こうとする中、自分も塾へ向かうべく廊下へ出ようとした。ちょうどその時、例の女子生徒が声を掛けてきたのだ。
「さっきは強引に誘ったりしてごめんね」
「え?」
「だって私のせいで断りにくい雰囲気になっちゃったでしょ? 白龍くん、そういうの苦手かなって」
「そんな、謝るようなことでも……」
 わざわざ引き留めて、何事かと思えば。あまりに些細なことだったので、適当に流そうとした。
「今週は都合悪くても、来週より先なら予定空けられそう?」
「え? えっと……」
 慌てて壁掛けのカレンダーを見つめた。
「まだ来週以降は入るコマが決まってないから、何とも言えないけど。一応は大丈夫だと思う」
「そうなんだ」
 また実行委員の打ち合わせがあるんだろうか。当たり障りのない返答をした。
「あのね。私からの急なお誘いになっちゃうんだけど」
「……?」
「たとえば来週の金曜日、放課後とかどうかな」
「多分大丈夫とは思うけど。委員会の打ち合わせ?」
「う、ううん。あのね、白龍くんに勉強を教えてほしくって」
「……えっ、俺?」

 いつの間にか無人になっていた教室に、自分の大きな声が響き渡った。
「勉強教わるなら俺よりも担当の先生に聞いたほうが、いいんじゃないかと思うけど……」
「そ、それはそう、なんだけど……」
 女子はやや俯きがちになって、答えあぐねているようだ。
「……あのね。私、今よりもっと白龍くんのことを知りたくて、仲良くなりたいなって思ってるの。だからその、私の勝手なお誘いなんだけど……」
「……」
「嫌だったら断ってくれてもいいの。でも、良かったら放課後、図書館でも自習室でも、外のご飯屋さんでも、一緒に出来たらなって」
「……」

 自分は言われた意味の真意を、意図を、ここでようやく理解した。
 要はこの女子生徒は勉強を教えてほしいという名目で、自分と話がしたいだけなのだ。まどろこしい言い方をされたのは照れ臭さが混じっていたからか。誰も居ない教室で声を掛けられたのも意図的なんだろう。
「あー、えっと……」
「嫌、かな」
 俯いたまま、体の前で組んだ手を弄っている。よく見ると、結んだ髪の合間から見える耳がほんのり赤くなっていた。
「嫌とかじゃないから……来週の金曜だよね。予定、空けとくようにするよ」
「本当にっ?」
「う、うん」
 食い気味で返事が返ってきて、一歩後ずさってしまった。
「放課後どこ行く? 私ね、行ってみたいカフェがあって」
「そ、そう。俺はどこでも……」
「じゃあそこ行こっか。あ、あとで場所教えたいから、連絡先交換してもいい?」
「うん……」
 もはや言われるがままだ。スマートフォンの画面を見せると相手のアカウントと繋がることができて、何から何まで設定をしてもらった。一通目のメッセージとともにキャラクターのスタンプが届く。そして彼女が行きたいという店のホームページのURLも受信した。
 表示されている店名や外観は見覚えがない。このあたりだと有名で人気があるらしいが、中学生の男子には縁遠い話題だ。
「じゃあね白龍くん。また明日」
「ああ、また明日……」
 足早に教室から去ってゆく背中を見届けて、自分は人知れず溜息を吐いていた。
 自分なんかを誘わなくたって、もっと話していて楽しい同級生はクラスに大勢居る。彼女は真面目だが比較的人見知りはしないタイプに思えるし、他の生徒に声を掛ければいいのに。今週末の交流会とやらも、自分みたいな生徒より他の明るい人が行けばいいと思う。
「どうしよう……」
 スマートフォンに表示された連絡先を見つめて、自分は再び溜息を吐いた。チャットメッセージに対する返事を考える余裕もなく、足早に靴箱へ向かった。



 塾の教室に着くと、他の生徒に勉強を教えているジュダルが遠目に見えた。今は完全に”仕事モード”らしく、長い髪の毛の合間から窺える横顔は真剣な表情だ。こうして講師の仕事をしている姿だけ見れば、真面目な好青年に思える。本性は子供っぽくて意地悪で、独りよがりな青年なのだが。
(……あ)
 不意に目が合った。あちらは目を丸くしたあと、愛想のいい笑顔を向けてくる。自分は思わず顔を逸らして、すぐさま着席した。

 ひとコマあたり五十分の授業、ふたコマ連続で授業を受ける場合は間に十分間の小休憩が挟まる。今日はふたコマ連続で出席する予定だったので、机の上を整理しつつ時計を見た。
 今日は帰ったら兄と姉が待っている筈だ。こんな日に限って塾があるなんて恨めしい。早く家に帰りたいと思ったのは一体いつぶりだろう。
 そわそわと浮足立つ気分を押し殺して、時間が経つのを待った。
「……あ」
 制服のポケットに入れっぱなしになっていたスマートフォンが点滅していた。誰かからの着信だろうか。
「……兄さん」
 晩ご飯、何がいい? という短いメッセージを受信していた。
 送信主は白蓮だった。
「何でも……」
 何が出てきても嬉しいに決まってる。
 しかし、”何でもいい”と送り返すのも素っ気ないし、投げやりな気がする。あちらのほうだって、せっかくなら食べたい物を作りたいだろう。
「カレーとか……?」
 冷蔵庫に残っている食材を思い浮かべながら返信をした。向こうからの返事を待つ。
 端末の画面を見つめていると、不意に手元に大きな影が落ちた。影はぴたりと止まらずゆらゆら揺れている。
「よお白龍。ちょっとツラ貸せよ」
 頭上から伸びてきた腕が、力づくで肩を掴んでゆく。引きずられるようにして立ち上がると、そのまま彼の向かう先へ付いていくことになった。

 教室の出入口まで向かって外に出た。塾の前の道路は迎えに来た親や待ち合わせをする生徒らで混み合っていた。がやがやと騒がしい道を縫うように歩いて、やがて人気のない地点まで出た。

「……お前のお兄さん、見つかって良かったな」

 歩道用のガードレールに凭れかかった男がそう呟いた。
「一切連絡なかったんだろ。今までどこに行ってたんだ?」
「……ジュダル」
 夕暮れ時の空に溶ける声は穏やかで優しかった。本気で心配してくれていたんだろうか。あるいは、別の理由があるんだろうか。自分の中にはひとつの疑念が芽生えていて、彼の目を直視できなかった。
「ジュダルは雄兄さんのことを知っているようですが、兄さんもジュダルの名前を口にしていました。お二人は知り合いなんですか? それとも……」
「……」
「兄さん達が行方をくらます原因が貴方にあったんですか?」
「何の話だよ」
 男は目を瞠って声を上げた。
「雄兄さんはジュダルと直接お会いしたことはないようですが、敵か味方か分からないと警戒していました。しかしジュダルは良い奴ではないと……損得勘定で動いて、平気で人を裏切ると言っていました」
「……」
 彼は反論しない。押し黙って、じっとこちらを見つめている。
「なら、ジュダルが俺に近づいたのも、雄兄さんの弟である白龍だからですか? 雄兄さんと蓮兄さんを陥れようと……」
「だから何の話だって言ってんだよ!」
 胸倉を掴まれて、至近距離で怒鳴られた。周囲の通行人から一斉に視線を集めてしまう。だが、彼は構わず大声で捲し立てた。
「裏で手引きしてるのは玉艶と紅徳だ! それと、玉艶は紅徳すらも利用しようとしてる! 紅炎たちは薄々状況を理解してるだろうな。あいつらは賢いし頭が切れる。そろそろ白雄と紅炎が結託しててもおかしくない」
「なんで……なんで、そこまで知って」
「俺が”ジュダル”の記憶を持ってるからだ」
 襟首を掴んでいた手が離れて、息がしやすくなった。こちらに向けられる群衆の視線は冷ややかで、居た堪れなくなる。
「白雄は他に、俺について何か言ってたか?」
「……もし生きているなら会いたいとも、言っていました。俺は咄嗟に、知らない振りをしてしまいましたが……」
「何故?」
 彼の背後に見えた茜色の夕日が眩しくて、目を細めた。真っ赤に燃える炎みたいな空を背負って、男は怪訝な顔をする。
「……ジュダルが悪い人なのか、良い人なのか、分からなくなったからです。雄兄さんは貴方のことを信用してない。そんな貴方を突き出すような真似、俺には……」
 視線を落とすと、足元にはゆらゆらと揺れながら長く伸びる影があった。二人分の影は付かず離れずを繰り返している。
「ジュダルや雄兄さんには、俺の知らない事情や秘密がたくさんあるみたいですね。どうやらお二人とも、共通の記憶を持っている……」
「……」
「その記憶というのは、貴方が以前言っていた夢の話ですか? 昔から何度も見る、悪い夢の話」
 彼は一旦顔を伏せてから、再び目を合わせてきた。
「……ああ、そうだ。その口振りから察するに、白雄も俺と同じ夢を見て、記憶を辿ることが出来ている筈だ。だからあいつは真っ先にジュダルの存在を気に掛けた」
「お二人はどういったご関係だったんですか?」
「……それは……」
 口を閉ざした男は何も言わない。いや、言えなくなったのか。聞かれて答えられる範囲なら即答するだろうに、彼は歯切れ悪く言葉を濁そうとする。

 気まずい沈黙が流れる最中。突如、空を切り裂くような電子音が鳴り響いた。けたたましい音に何事かと目を剥くと、男は少し焦ったように腕時計を見つめる。
「あー……あと一分で授業が始まっちまう。もう教室に戻らねえと」
「そ、うですか……」
「この話の続きはまた後日だ。ひとまずお前は、白雄たちの前で何も知らない振りをしてろ。気取られるんじゃねえぞ」
「わ、分かりました」
 兄に隠し事をするのは心苦しいが、自分がむやみに状況を引っ掻き回すのも良くないのかもしれない。

 兄はジュダルのことを敵か味方か分からない、素性の知れない奴だと評した。容易く他人を裏切り、常に自身の利になるよう立場を変え、のらりくらりと世を渡ってきた男であると。

 しかし、自分が知る目の前の男はそんな人間に思えないのだ。確かに、他人の懐に入り込んだり交流を広げることには長けているようだが、それは持ち前の器用さ故だ。それを悪用して他人を陥れるだとか、裏切るだとか、悪い評判は聞かないしされたこともない。
 彼はこの塾で講師として身を置いている。軟派な振る舞いは少々目に余るが、生徒らに人気があるしそれなりに慕われている。他の講師らとも共に仕事を全うして、立派に働いている。私生活は大雑把な面が多々あるが、いちおうは何とかやりくりしている。ボロボロのアパートも、最初はこんなところに住むなんて、と引き気味に感じたが、何度か出入りしているうちに慣れてしまった。
 夕闇が迫る東の空を眺めながら、あと数十秒後には授業が再開される教室に向かって全速力で走った。そのときにジュダルが思いのほか走りが遅いことを知って、何だか可笑しい気分になった。



 この日、帰宅が一番遅かったにも拘わらず、自分以外の家族はテーブルの席に着いて帰りを待っていてくれた。さぞかし腹が減っているに違いない。先に食べたほうがいいだろうに、彼らは笑顔でおかえり、と出迎えてくれた。
 テーブルに並んでいたのは、夕方にリクエストしたカレーだった。真っ白の丸い陶器皿に炊きたての白ご飯をよそって、鍋で温めていたカレールーを注いでゆく。全員分の皿に盛り付けられ、副菜の小鉢も行き渡ったところで、ようやく四人全員が着席する。
 銀色のカレースプーンを手にして、いただきます、と声を揃えた。小学校の給食じゃあるまいし、と誰かが笑うと、釣られてみんなで笑った。
「兄さんたちはいつまで居られるの?」
「土曜の夜には出ようと思ってる。それまではここで世話になるが、すまないな」
「そっそんなことないよ。むしろ、ずっと居てほしいくらい……」
 皿の端に残ったルーをスプーンで掬って、白雄の顔を見た。
「いつ戻ってこれるかは、分からないのよね」
「ああ。また暫く連絡が取れなくなる。心配ばかりかけさせて申し訳ない」
「雄兄の手料理が暫く食えなくなるなんて、俺も寂しいぜ」
「お前までそんなこと言うな。一番辛抱させるのは白龍なんだ」
 白雄がこちらの様子を横目で窺う。
「雄兄さん、俺なら平気だよ。留守番は慣れてるし、家事も料理も一人で出来る。だからまた、いつでも帰ってきて」
 彼らの背中を押すつもりで、精一杯言葉を選んだつもりだった。しかし兄たちは顔を見合わせて、申し訳なさそうに目を伏せる。
「必ず帰ってくる。だからお前たち二人も、どうか元気で居てほしい」
「勿論よ。私はこう見えてタフだから」
「姉さんはどちらかと言うと蓮兄さん寄りだもんね」
「白龍、それってどういう意味だ?」
 白蓮が抗議の声を上げて、向かいに座る白瑛が朗らかに笑っていた。

 穏やかな夕食時のひと時はあっという間に過ぎてしまった。一人で作った料理を一人で食べていた時に比べたら、よっぽど時の流れが早いと感じる。入浴や歯磨きなどの寝支度を済ませていたら、すぐに就寝時間となる。
 リビングに設置された橙色の室内照明を消して、家族におやすみ、と就寝の挨拶を告げた。兄たちも大きな欠伸をしておやすみ、と返してくれた。たったそれだけのことで充足感を感じる。毎日こんな日が続けばいいのに、と思わずにはいられないのである。