好きをあげる
あーでもない、こーでもないと男は一人、部屋で百面相をしている。ぶつぶつと何か呟きながら右往左往するさまは傍から見れば不気味で不審者にしか見えない。
もう一人の女はそんな男の様子にさして興味もなく、部屋に備え付けられたテレビでバラエティ番組を観ていた。女にとってはこの奇妙な光景も日常茶飯日で、とっくに見慣れていたのかもしれない。
「おいC.C.、聞いているのか」
「今いいところだから、後にしろ」
C.C.はテレビ画面から視線を離さずそう呟いた。背後にいる男に向けて言ったのだろうが、その態度はただでさえ苛立っている男を逆上させる要因にしかならない。
「人の話を聞け! 録画分だからいつでも観れるだろうが!」
「画面の前から退けルルーシュ、お前の無駄に長い脚はもう見飽きた」
謗られているのか褒められているのか分からない言葉に、ルルーシュは声を詰まらせた。かくなる上は武力行使しかない。ルルーシュはテレビ視聴を妨害するかの如く画面の前に立ち塞がり、腕を組んで仁王立ちしてみせた。C.C.の嫌味たらしい視線に眉を顰めた男は、なおも彼女に訴えかける。
「この俺がここまで頼み事をしているんだぞ?」
「頼み方がなってない。三回まわって土下座してピザを買ってこい」
「それは俺をからかいたいだけだろうが」
なおも二人は低次元で短絡的な言い合いを続けたが、先に飽きたのはC.C.のほうだ。彼女はお気に入りのクッションを胸の前に抱えて、背後にあるベッドを背もたれ代わりにし、脱力した。長い髪の毛がさらさらと音を立て、シーツに擦れて床に散らばる。その光景はどこか妖艶で色っぽいのに、男は顔色ひとつ変えず微動だにしない。
「で、何の話だったか?」
「だから、明日だ! 明日、俺はどうすればいいのかと」
「適当にまぐわえばいいんじゃないか」
「ま、まぐ……!?」
ルルーシュが現在進行形で頭を悩ませているのは他でもない恋人、スザクの誕生日についてだ。明日に迫った彼の生誕日に、今年はどう祝って喜ばせてやればよいかと頭を抱えていたのである。
以前であればルルーシュの住む屋敷に彼を招いてナナリーと共に夕食を楽しむのが慣例であった。しかし今年は、ルルーシュがスザクと交際し始めてから初めて迎える誕生日だ。ここは男として、いつもとは違う特別な日を演出してやりたい。喜ぶ彼の顔が見たい。ルルーシュはそう考えて、なら今年はスザクのために一肌脱いでやろう、というのが魂胆である。
いつもとは違うように祝ってやる、と大見得切ったものの、実際のところはどうすれば良いかさっぱり見当もつかないのが事実だ。手料理を振る舞うことなんてしょっちゅうだし、プレゼントを買うだけだとありきたりで面白くない。どうせ生徒会でもちょっとした誕生日会を開くだろうし、プレゼントはその際で良いだろうと思えた。
そうなってくるといよいよ、ルルーシュはスザクをどう祝ってやれば良いか分からなくなる。遊園地や映画館にでも誘おうかと思ったが、何となく、二人きりで静かに過ごしたい気持ちのほうが強い。
だから恥を忍んで、同居人の女に相談を持ちかけたのだ。どうすれば彼を祝ってやれるだろう、と。
「なんだ、まだ手を出されてないのか?」
「そっそれは、その」
「あの男、体力だけは底なしだろう。お前じゃ付き合いきれないんじゃないか」
「な、そんなことは、…」
「それか、お前に合わせてセーブされているのかもなあ」
「あ、有り得なくもないが…」
C.C.に根掘り葉掘り聞かれ、素直に答えてしまうルルーシュも迂闊過ぎた。彼女にスザクとのベッド事情を暴露するために相談を持ち掛けたわけじゃない。
ルルーシュは頭を振って、脱線した話を元に戻した。
「俺はどうすればいいかと聞いてるんだ」
「だからさっきも言っただろう。まぐわってしまえと」
先程のあけすけな発言は冗談でも冷やかしでもからかいでもなく、本気の提案だったらしい。ルルーシュは再三頭を悩ます羽目となった。
「いいか、ルルーシュ」
大きな溜息を吐き出し、もう話にならないと呆れていた男に、女は真面目な顔をして諭した。
「大事なのはいつもと違う"特別感"だろう?」
やけに自信に満ち溢れる彼女は、言っていることはまともだがそもそもの前提がふしだらで下品なのだ。語気は力強いが、冗談なのか本気なのか判別つかない言葉は信憑性に欠ける。いまいち信用ならない発言を話半分に聞き流していたルルーシュに、C.C.は再び声を上げた。
「ならお前から誘ってみるんだよ。それでお前が積極的に動いて、リードしろ。主導権を手放すな」
女は妖艶に微笑みながらそう言った。試されているのかもしれない。だが悪くない発案だとルルーシュが思ってしまったのは、少ない経験のせいか思慮が浅はかなのか、あるいは両方か。
「それでももし形勢逆転したときは、ヤツにこう言ってやればいいんだよ、…………」
「いっ言えるか、そんなこと!」
「恋人の誕生日なんだろう? 喜ばせたいんじゃないのか?」
C.C.直伝の"殺し文句"は、ルルーシュにしてみれば口が裂けても言えない言葉だ。恥ずかしくて憤死するどころの騒ぎではない。だったら三回まわって土下座してピザを買いに行かされるほうがよっぽどマシだ、と純粋に思えた。
「年に一度しかないんだと言ったのはお前だろう、ルルーシュ。一度くらいならいいじゃないか」
女はにやりとほくそ笑んで、ルルーシュに語りかけた。その表情はまさしく彼女が自称するとおり、質の悪い魔女そのものだ。
思い立ったが吉日、善は急げ、である。
ルルーシュはさっそく手持ちの携帯でスザクの番号に発信した。明日の夜はうちで夕食を食べないか。それでそのあと、お前の部屋に行ってもいいか。緊張したルルーシュの声はやがて喜色を帯び、朗らかな笑い声へと変わっていった。
そのやりとりを同じ部屋で聞いていた女はくすりと笑った。見掛けによらず随分と初心で奥手な男は、実にからかい甲斐があり、見ていて飽きない。
「さて、どうなることやら」
女はさも他人事のようにそう呟いて、若い恋人たちの行く末を眺めることにした。
君の料理は相変わらず美味しかったよ、と微笑む男の顔をどうしても直視できない。これから自分がやろうとしていることを考えると、会話もままならなかった。
スザクを夕食の場に招いたルルーシュは、とびきり腕をふるったオードブル料理で彼をもてなした。なんたって今日はスザクの誕生日だ。ささやかではあるが、もちろんバースデーケーキの準備も忘れない。同席したナナリーと咲夜子と一緒にバースデーソングを歌って、みんなで彼を囲んで祝った。スザクは照れくさそうにしながらロウソクの火を消して、みんな有難うとはにかんだ。
食事をしながら昔の少し恥ずかしい思い出話に花を咲かせ、穏やかな団欒の時を過ごした。そうして夜も深まった頃、約束どおりルルーシュはスザクの部屋へ訪れた。
去年まではルルーシュの住む屋敷で共に夕食を摂って、少しだけ夜遅くまで話をして、それで終わりだった。でも今年は違う。ルルーシュがあらかじめ、このあとスザクの部屋で二人で話をしたいと伝えていた。
三人は家族ぐるみで昔から仲が良かったから、ナナリーを交えて昔の話や近況についての話題で盛り上がることが多い。だが今現在、何だかんだと紆余曲折あって、ルルーシュはスザクと付き合っている。ということは、幼馴染のノリで話せないことや、ナナリーには見せられない部分だって大いにあるのだ。そういう主旨のもと、ルルーシュはスザクと二人きりで話したい、と強請った。スザクはいつになく素直で甘えたなルルーシュの様子に驚きつつ、二つ返事で了承した。
そうした経緯でスザクの部屋を訪れたルルーシュであったが結局のところ、そこからどういう手順を踏めばいいか全く分からなかった。
C.C.による"まぐわってしまえ"という大胆な案を採用したはいいものの、ルルーシュが自ら彼を誘ったことは一度としてなかったし、そもそも恋人らしい行為も一回か二回くらいしか経験がない。(あるかどうかは知らないが)ベッドにおけるマナーや作法や順序の知識はまるでなく、経験値も無に等しい。そんな自分が彼を誘い、あまつさえ主導権を握れなど、無謀にも程がある。ルルーシュは隣の男の顔をちらりと盗み見して、すっかり萎縮していた。
「こうして二人きりで話すの、なんだか久しぶりだね」
「あ、ああ」
しかしルルーシュは既にスザクの部屋に上がり込んでいる。つまり残すは行動に移すのみだが、それがどうしてかできない。
「あ、今の時間だと映画やってるかも」
何を言おうか、どう切り出そうかと迷っているルルーシュの様子に気づかないスザクは、テレビのリモコンを操作し始めた。衛星放送で流れる番組の中に、過去の映画作品を放映する番組があるらしい。
「観たいのある?」
「いや、俺は……」
番組表を画面に表示させながら、スザクは気を利かせてそう尋ねた。しかしルルーシュが今晩、スザクの部屋を訪ねたのは遊ぶことが目的ではない。
「録画してた番組あるかなあ」
「す、スザク。俺はその……」
「あ、それともゲームする? 対戦のやつ」
「いや……」
もそもそと喋るルルーシュの声にはさして耳も貸さず、スザクは一方的にあれはどうだ、これはどうだと提案し続けた。和やかな誕生日会の直後ということもあって、どうしても色艶めいた雰囲気には移りにくい。
「そうだ見てよルルーシュ。こないだ貸してもらった雑誌なんだけど、ここ行ってみない?」
本棚から情報誌を引っ張り出したスザクはぱらぱらとページを捲くって、ルルーシュにも見えやすいように床に置いた。
スザクがここ、と指差したのは、駅前に新たにできる料理屋らしい。オープンテラス席もある、モダンな雰囲気の肉料理屋だ。昼間はバイキング形式だそうで、いつか休日にでも生徒会のみんなで行ってみたいと感想を漏らした。
健全な話題を投げかける彼の横顔が眩しくすら覚えて、ルルーシュは居た堪れない。
いつもは自然とルルーシュが受け身になっていて、そういえば自分からキスをしたり手を繋ぐこともなかったな、と思った。申し訳なさを感じると同時に、だからこそ押し倒したところでどう動けば良いのか分からなくて、途方に暮れた。
おろおろと惑う視線にようやく感づいたのか、隣に座るスザクがルルーシュの肩を引き寄せた。どうかした? 何か言いたいことでもある? と優しく問いかける彼の声はとびきり甘い。
「ごめん、さっきから僕ばっかりはしゃいじゃってて」
スザクは恥じ入るように、頬を掻きながら謝った。
もう諦めてしまおうかと思いかけたが、ルルーシュはかぶりを振った。今日は年に一度しかないスザクの誕生日だ。こんな特別な日くらい、ルルーシュだって男気を見せて彼を満足させてやりたい。どのみち彼に覆い被さったところで自分は女役に徹するしかないが、しかし今日くらい男を見せなければいつ見せるんだ、とルルーシュは自らを奮い立たせた。
引き寄せられた腕をそっと外して、スザクを見つめた。いつになく真剣なルルーシュの表情に、スザクは呆気に取られて目を瞬かせる。
開かれて傍に置かれたままの雑誌を一旦閉じて、邪魔にならない場所に追いやった。これからのことを考えると、汚したり破損させかねない。
「ルルーシュ?」
不思議そうに名前を呼ぶ彼の唇に、思い切って自らのものを覆い被せてみた。
「ん、ん…!?」
存外柔らかい唇の感触とは裏腹に、羞恥と困惑が入り交じる目と至近距離で視線がかち合った。
ここまでいけばもう、あとは勢いに任せるしかない。
唇を重ねたままスザクの体を床に押し倒し、真っ赤な顔で翡翠色の瞳を見下ろした。それと同時に口元からがちり、と嫌な音が鳴る。彼の体を引き倒した反動で唇の位置がずれて、互いの歯がぶつかってしまったからだ。嫌な音と感触に、二人揃って思わず眉を顰めた。
口付けひとつもまともにできないとは、我ながら恥ずかしい話である。唇の柔らかさも熱も味も感じる余裕がない。
ややあって口を離せば、驚いたらいいのか照れたらいいのか喜べばいいのか分からず、瞬きを繰り返すスザクの顔がよく見渡せた。床下手で初心な自分を意地悪に弄ぶ彼の趣味が、ほんの少し理解できた気がした。
「ど、どうしたの」
ルルーシュを不思議そうに見上げるスザクは、今ひとつ自分の身に何が起きたのかも理解できていない様子だ。
「その、これはだな……」
押し倒したはいいものの、そこから先はどうすればいいのか。言葉の先も動き方も、さっぱり見当つかなかった。
自分がそうされるときは恥ずかしさで目を瞑っていたし、あれよあれよという間に服を脱がされ、あられもない場所を触れられているのが常だ。スザクの手練手管を思い返そうにも、何も覚えていないことに気づいたルルーシュは頭を抱えたくなった。
「えっと、だから、俺は……」
ここまでしたなら引き返すわけにもいかないし、かといってこれ以上どう進めたら良いか分からない。
にっちもさっちもいかなくなったルルーシュは、スザクの両肩を掴んだまま考え込んでしまった。服を脱がせばいいのか、口を吸えばいいのか、体を触ればいいのか。何パターンか考えてみたものの、どの行動を取っても悪手にしかならないように思えた。
顔を真っ赤にしたまま微動だにしないルルーシュへ、先に声を掛けたのはスザクだった。
頬にかかる髪ごと輪郭に手を添え、落ち着いて、と宥められた。優しい口元にはやや照れが混じっていることから、この状況にスザクも少なからず恥じらいを感じているのだろう。恥ずかしいのはルルーシュだけじゃない。
それは今だけでなく、これまでもそうだったのかもしれない。自分が必死に目を瞑って羞恥に耐え忍んでいる間、スザクも同じくらい恥ずかしくて堪らなかったのだろうか。時折胸がぶつかったときに感じる鼓動の速さと血潮の匂いを、ルルーシュは思い出していた。
「す、スザク」
だからルルーシュはようやく決心がついた。男はいつも余裕の表情を浮かべながら、体の奥に早鐘のように脈打つ心臓を隠し持つ。
そう考えるとどうしようもなく愛しく思うし、彼をそうさせている原因が自分にあることを思うと、素直に嬉しかった。
脳裏にC.C.から教わった"殺し文句"のセリフが過る。こう言ってまぐわえばいいんだ、と妖しく笑う魔女の声がどこからか聞こえた。それは甘美で邪悪な悪魔の声だった。
「俺の体、い、今だけは、お前の好きに」
「え、えっ?」
「好きに、されたい」
──こう言えばいいんだよ。お前の手で滅茶苦茶にされたい、って。
あらかじめ用意された台本の台詞はまるで本心からの言葉のように、するりと口から出た。
舌が縺れてたどたどしい発音で漏れた文句は、それでもスザクには十分効果があったようだ。顔を真っ赤にして視線を彷徨わせるのは、今度は彼の番である。
「言ったら駄目だよ、そんなこと…」
「なんでだ」
ルルーシュの無知な瞳が、スザクの据わった目を見つめた。
「そんな目で見ても、なんにもしないよ」
「なっ」
なんで! と抗議しかけた口は、今度はスザクが塞いでみせた。ちゅ、ちゅ、と音を立てながら唇を食むと、むずがるようにルルーシュが首を振った。
気がつけば、ルルーシュはスザクに流されていてばかりだったように思う。彼がキスしたいと言えば目を瞑ったし、手を繋ぎたいと言われれば指を絡ませた。体を重ねたいと、熱の籠もった目で見つめられれば素肌を差し出した。でもこれではスザクに言われるがままのようで、不甲斐ないし納得がいかない。ルルーシュにだって男としてのプライドはある。だから今日くらい、自分がやりたいようにしたかった。俺はお前にこうされたいんだと、言葉と行動で伝えたかった。
なぜなら今日は彼にとって、一年に一度の特別な日だからだ。
これは一か八かの賭けである。
色艶めいたことに積極的ではないが、自分は基本的に何事においても大胆に行動する性格だ。
だからルルーシュは、スザクの顔の横に手をついて、それとなく腰を揺らしてみたのだ。
「え、えっ」
スザクの太腿を股座で挟み込み、腰を揺すってみれば、彼はあからさまに動揺し始めた。
正直な奴め。やっぱりスザクは我慢している。真面目でいい子ぶって、本当は自分だってしたいのだ。
「……ルルーシュもしかして、たってる?」
「……」
いちいち言わせるな。
ルルーシュは色欲が滲み始めた目の前の双眸を睨んだ。
「…っ、ん……ん…」
「ちょ、ちょっと待って!」
スザクの太腿に股間を擦り付けるように腰を揺らすと、微弱な性感がじわりと広がって声が漏れた。わざとらしく吐息を吐き出してやれば、スザクは慌ててルルーシュの肩を掴んでおろおろとし始める。これほどまでに余裕のない彼を見るのは初めてで、少し得意な気持ちになった。
「あーもう、君って奴は本当に……」
「するのか? しないのか?」
ここまで来れば向かうところ敵なしである。いつになく強気なルルーシュはスザクににじり寄った。スザクは相変わらず葛藤しているのか、うーんと頭を捻っている。
「じゃあアレしよう」
ようやく決心がついたスザクは、とある提案を投げかけた。それは抽象的過ぎて、ルルーシュにはさっぱり見当がつかない。
「アレ?」
「擦り合いってやつ」
「擦り……?」
それはルルーシュの体に負担がかからず、かつ二人とも気持ちよくなれる方法だった。
二人分の吐息が混ざり合って、汗の臭いと一緒に吸い込めば、体温がぐんと上昇した。口の端から滴った唾液はどちらのものか分からない。
「っん、ぁ…」
ちゅ、と音を鳴らして唇を離されると、途端に甘い声が滑り落ちて止まない。
べたべたになった指先が縺れて、彼の陰茎をきゅうと握り込んだ。途端に鈴口からは絞り出されるように透明な液が漏れて、まるい亀頭を伝った。生唾を飲みながら、そのさまをぼんやり見つめていると手動かして、と声を掛けられる。弾かれるように前を向くと、もどかしそうな表情をするスザクと目が合った。言いようのない興奮が背筋を駆け抜けて、ひくりと唇が震えた。
スザクの言う擦り合い、というのは読んで字のごとく、互いに向かい合わせになって陰茎を扱き合う行為を指した。
両手は相手の体液で濡れ、馬鹿のひとつ覚えみたいに何度もキスをした。そのたびに手の中の陰茎は震えて硬度を増す。それを感じるだけでどうしようもなくドキドキして、恥ずかしくて嬉しかった。
「ッあ、ひ!」
「…何か、考え事?」
視界に一瞬、火花が散るような衝撃を感じた。スザクが鈴口に爪を立て、尿道に向かって押し込んだのだ。なんてことをするんだと言いたかったが、痙攣する唇では言葉が紡げない。
「あ、ぁ…ひ、あ……」
依然としてスザクは先端を親指で抉り、ルルーシュを見つめた。質問に答えろ、という意思表示なのであろうが、些か乱暴が過ぎる。
「お、前のこと、ずっと、考えて、た」
「…そうなんだ」
この状況で、むしろお前のこと以外に何を考えるんだ。ルルーシュは言外にそう込めた視線を送ったが、スザクは気づいてくれやしない。
それどころかスザクは微笑みすら浮かべながら、先端を指圧しつつ裏筋を執拗に擦り始めた。
「っそれ、あ…! 出るから、出る、やめ」
「…いいよ」
「やめ…っん! …出るから、あ」
スザクはルルーシュの様子を不思議そうに見遣った。先に出していいよ、と許しても、ルルーシュは嫌だ嫌だと駄々をこねた。
「一緒に…、一緒がいい…」
「ああ、うん、そっか…。そうだね」
スザクは切ない顔をしながら、ルルーシュに口付けた。そうして示し合わせたわけでもなく、互いに差し伸ばした舌を口内で絡め合って、吸い合った。
ルルーシュが深い接吻に夢中になってる間に、スザクの手によって二人の陰茎がひとまとめにされて、同時に擦られた。ルルーシュの疎かになっていた手もスザクに重ねられて、べたべたの手でがむしゃらに竿を擦った。
はくはくと小刻みに震える唇を目の前で見つめて、ルルーシュは彼の亀頭を手の平で覆った。すると温かい液体がかかる感触がして、ルルーシュも後を追うように彼の手の平で吐精した。
全力疾走でもしたのかというほど荒い息を整えながら、ルルーシュは両手の惨事をぼんやりと見つめた。青臭い両の手の平は、どちらのものか分からない体液ですっかり滑っている。実に居た堪れない光景に目眩すらした。
不意にスザクが汗だくになった額を拭うように、ルルーシュの肩に凭れかかった。はあ、と吐き出された息は熱を孕んでいて、変な気分になりそうだ。
「これは僕、祝われてるのかな…」
「……嬉しくなかったか」
恐る恐るルルーシュが尋ねると、スザクは緩く首を振った。
「いや、すごく、嬉しかった」
噛みしめるように紡がれた言葉に、ほんの少し心臓が跳ねた。真下にあるスザクの頭頂部と、髪の毛の間から覗く赤い耳がよく見えた。つまり彼が顔を見せないのは照れ隠しである。
「…僕に体を好きにされたいって、本心?」
「……ああ」
あの台詞の元ネタはC.C.の発案であり、これを言えばどんな男でも即落ちだと伝授されたものだ。しかしあの瞬間確かに、ルルーシュは自らの意思でスザクにそう告白した。誰かに言わされたり予め用意した言葉をなぞったようでもなく、自然と口から零れ落ちていた。だから多分あの言葉は紛れもなく、己の本音であったのだろう。ルルーシュは密かにそう確信していた。
「嬉しい。有難う」
スザクはいつの間にか俯いていた顔を上げていて、ルルーシュと向かい合った。
「最高のプレゼントだ」
「……それは、どういたしまして」
どうにもスザクの視線と言葉がむず痒くて仕方ない。ルルーシュはとうとう耐えきれず、そう呟いてそっぽを向いてしまった。
目の前の男には吐息だけで笑われた気がしたが、誕生日に免じて許してやることにした。
完