男のロマン

 情事のあとの気だるい熱気と生臭い湿気を孕んだシーツを爪でくしゃりと掻き、もう本日何度目になるのか分からない抗議を上げた。盛り上がって一気に精を出し尽くしたあとに訪れる、妙に冷静な思考と理性が、熱で沸いた頭と体をじわじわ蝕む。そうすると、この羞恥の極みを具現化したような現在の状況に、どうしても抗いたくなる。
「もうちょっとだからほら、じっとしてて」
「う…っ、………く…」
 孔をまさぐるその手付きは夜の雰囲気ではなく、どちらかと言えばそれは、淡々とした事務的な作業のようである。男の顔つきは真剣そのもので、昨晩のだらしなく緩み切った顔をしていた者とは、別人のようであった。しかしそうは言っても、平時は絶対に異物を入れるわけがないその場所に指を突っ込まれ、体の隅々の、あらぬ場所まで男からは丸見えな今の状況に於いて、そんな建前は通用しない。穴があったら入りたい、と手短にある枕に顔を埋めた。

「……ひッ!」
「っと、ごめん……」
 男の太くてしなやかな指が泣き所を掠めてしまった。何の予告もなく不意打ちで与えられたそれは、たとえ微弱な刺激であっても、昨晩散々泣かされ喚かされ解かれた体にとっては、強烈な毒である。己の下半身に蹲る男に恨めし気な視線を送り、さっさと済ませろと、強い口調で命令した。しかし本人の意思とは関係なしに、声音は上擦り擦れ、まるで誘い文句かのようにも取れる色艶を含んでいた。くぽ、と空気が抜けたような間抜けな音が穴から聞こえたと同時に、はいこれで終わりだよと伝えた男が、漸くシーツから退いた。
「勃ってない?大丈夫?」
「だ、だいじょうぶだから」
 内心ちっとも大丈夫ではなかったが、この体勢と、裸のままの自分と、湿っぽい部屋から少しでも抜け出したくて嘘をついた。穴は依然として、埋められていたものが抜けてしまってぽっかり空いたような違和感がして、それはまるで埋まっているのが当たり前だと、馬鹿になった体が認識しているようで居たたまれなくなった。
 寝ている間、体に付着したどちらのものか分からない体液やらは、彼の手づから温かいタオルで拭ってもらってはいたようだ。しかし、朝寝の間にじわりとかいてしまった新しい汗も、穴の違和感も、まとめて流したくて、覚束ない足取りでシャワールームへ向かった。
 少しぬるめに調節したそれを頭からざあざあと被ると、体の奥で未だ燻っていた浅ましい熱も排水溝に流れていく。浴室にある鏡に映る自分の体は、白くて平らで色がなくて、こんな貧相な体のどこにあの男は欲情するんだ、と改めて疑問に思った。まじまじと己の肌を観察すると、鎖骨のあたりや肩のまるい部分に鬱血痕が見える。次の体育の授業までには消えているだろうかと、些か不安になった。

 シャワールームから上がると、上下スウェットというラフな服装に着替えて彼の部屋へ戻った。もう何度も出入りした彼の住処は、電気のスイッチもガスコンロの元栓も、コンセントプラグの差込口も電気のブレーカーも、何から何までも場所を把握してしまっていた。
 先ほどの寝室に入ると、彼は開けていた窓を閉め始めており、シーツも新しいものへと、既に取り換えられていた。行為の余韻が消えた部屋は、さきほどまで致していたという雰囲気を感じをさせないほど清廉な印象を与えた。
 だから、こんな清らかな部屋でこういう話題を出すのは、昨夜の秘め事を蒸し返すようで大変憚られるのだが、仕方がないのだ。これは己の気持ちの問題なのだから。

「スザク」
「うん」
「その……」
「うん」
「だから、えっと……」
「うん」
 なかなか言い出せずにいる情けない自分に、男は根気強く付き合ってくれる。
「うーん…何か、言いにくいなら、そうだな……温かい飲み物、持ってくるよ」
「あ、ああ……すまない」

 ローテーブルが置かれた傍に座り込んで、部屋の主の帰還をぼんやりと待つ。
 整然とされた彼の自室は、いつ訪れてもきちんと片付いているようであった。というよりも、散らかるほどそもそも物がないのだ。家具も必要最低限しか置かれておらず、ただでさえ少ない収納スペースですらがらがらで埋まっていない。あまりに殺風景な部屋を初めて見たとき、欲しい物はないのかと思わず尋ねたことがったが、彼はもう欲しい物は手に入ったから、とはぐらかした。
 ほどなくして彼は、二つのマグを持って部屋へ戻ってきた。柔らかに立つ湯気を見ると、これから己が話そうとする話題にはあまりにもそぐわないほど、暢気な様だなと思った。
「ルルーシュは、こっち」
 そう言って手渡されたのはコーヒーだった。特段体が冷えているわけでもないが、温かいその液体を口に運ぶと体の芯が癒され、自然と息がついて出た。
「何の話だっけ」
 自分が話しやすいように、さりげなく話を振ってくれた彼の心遣いに感謝しつつ、爽やかなこのひとときにはやはり合わないそれをついに話すため、ルルーシュは重い口火を切った。

 スザクとルルーシュはごく普通の高校生でいて、クラスメイトで幼馴染で親友で、つい半年前に『恋人』という肩書も増えた。どちらから先に告白しただとか、ファーストキスはいつだとか、そういうこっ恥ずかしい話は敢えて端折るが、なんだかんだで順風満帆と言える交際を続けていた。スザクは色恋にも比較的硬派だと思っていたが、実はそうでもなく、案外、いやかなり手の早かった彼は、交際期間1週間足らずで肉体関係を結ぶことをせがんできた。恋人になるということはいずれそういう、秘め事も共有するものだとは思っていたが、まさかそんな早い段階で迫られるとは思ってもみなかったルルーシュは、あれよあれよと言う間に処女を散らした。また、直接的な表現をすると、男性同士の性交渉では当然のことながら妊娠する可能性は全くない。その代わりと言ってはなんだが、その分女役の肛門を慣らしたりする手間がかかるのだが、それについてスザクは全く手間だと思っておらず、それどころか、ルルーシュの身体を弄り回し、開拓することを喜びとしているふうであった。肛門が裂け血を流すよりかは圧倒的にマシではあるが、その分、ひどく大きな羞恥がルルーシュの負担となっている。
 そのような、ヒトの本来の作りにひどく反するような行為をしているものの、ルルーシュの身体にはとくにこれといった異常もなく、それどころか彼の手練手管によって、ルルーシュの体は恐ろしいほどに新たな快感を覚え始めていった。夜を過ごすたびに身体を作りかえられていくような感覚は、恐ろしさの中にも微かな期待を秘めて、ルルーシュを襲うのであった。
 もう両手で数えられないほど体を重ねるようになったころ、同時にルルーシュはそれまで抱いていた疑問が確信に変わっていった。
 この男、なぜ毎回避妊具を付けてくれないんだ、と。

「なんでって言われても……」
 ルルーシュは常時では絶対、自らの口からそういう色艶めいた話題を頑なに出さない。ただ単に、至極真っ当に、純粋に恥ずかしいからである。そんな己がわざわざこうやって尋ねているというのに、目の前の男はあっけらかんとして答える。
「ちゃんとお腹掻き出してるから痛くなったことないよね」
「……それは、そうだが」
「ならよくない?」
 正しく合理的なように見えるスザクの主張に、ルルーシュは内心頭を抱える。
 行為が終わってひと段落したあと、一旦冷静になった思考回路の中で、彼に後処理をされるという惨めっぷりと言ったら、それはもう筆舌に尽くしがたいほどの羞恥なのだ。情事の最中は開き直り、敢えて意識も理性も飛ばして行為に没頭してしまうため、恥じらいを感じる余力も自ら捨てている。でないとあんな、あられもない声や体勢、醜態をこの男に晒すなど正気の沙汰じゃない。むしろ最中は正気を捨て、ルルーシュ・ランペルージという人格を捨て、何もかもかなぶり捨ててでも、ルルーシュは彼の腕にしがみつくだけで精いっぱいであった。
 体と心が別人のように、バラバラになっているからこそ性行為に耽溺することができていた。だから、正気に戻りつつある意識の中であれをやらされるのは、ルルーシュにとっては、何物にも耐えがたい拷問のようであったのだ。スザクはそんなルルーシュの反応込みなのか、後処理を喜んでやろうとするから、余計に質が悪い。彼がどうしてもと言うから毎回好きにやらせていたが、もう我慢ならなかった。惚れた弱みもあり、それを言うのは多少、彼には悪いと思ってしまう。しかし、ここで譲ってしまえばまた己が泣き寝入りするはめになるのだと、心を鬼にして、その旨を告げた。

「ルルーシュがどうしてもって言うなら、いいけど」
「……いいのか」
 もっと頑なな反応を返されると身構えていたルルーシュは、あっさりと折れたスザクの様子に少し拍子抜けした。

 だが、一筋縄ではいかないのがこの男である。
 ただし……、と意味ありげに続けられたその内容に、ルルーシュはふざけるなと食って掛かった。
「君がどうしてもって言ってきたんじゃないか。そのくらい簡単だろう」
「それは、そうかもしれないが……」
「なら決まりだね。薬局屋とかに売ってるよ、安いやつ」
 事も無げにそう告げたスザクは朝食の支度のために、さっさと部屋から出て行ってしまった。その背中を茫然と見送るルルーシュはただ、その場に座り込んで、支度を終える彼を待つことしかできなかった。



 その後の、某日のことである。
 とある薬局屋へ、ルルーシュは単騎で赴いていた。
 その回り過ぎる頭脳をフル活用し、店内の防犯カメラの位置や角度から、できるだけ顔が映らぬ場所を即座に推測したルルーシュは、とあるコーナーへと一直線で向かった。任務自体は至極容易だ。それに要する時間はできるだけ短いほうが良い。目標は5分、多く見積もって10分以内に済ませたいところだ。店内に留まる時間が長ければ長いほど店員に顔を覚えられたり、知り合いと遭遇するリスクが高まるからである。脳内で何度もシミュレートを繰り返し、ひとまずカムフラージュのために男性用整髪剤を片手に、衛生用品が置かれている棚へ近づいた。

 ――「ただし、避妊具は君が買って用意してね」

 スザクの言葉がすべてもの原因である。いや元をたどれば己が、情事後の処理に耐えられない、貧弱な精神力のせいだと非難されればぐうの音も出ないのだが、それはそれ、これはこれだ。
 あの男はどうにも、自分が思いのほか男女の色事に疎い部分や、その経験不足さを揶揄う節があるように思う。そのこと自体はルルーシュ自身も含め認めざるを得ない。しかし、自分より少し経験があるというだけであの、余裕の態度である。正直、それが以前から少々鼻について仕方がなかった。だから今日はその汚名返上のため、いい加減調子に乗るなと、見返してやらねばならないのだ。
 まるで幼子のお使いのようだとげんなりしたが、肝心の買い物の内容はどうやっても幼子に頼めるような物品ではないから、居たたまれない。

 衛生用品が並ぶ棚の一番下に視線を巡らすと、探していたそれが陳列されていた。小さい箱に入っているらしいそれらは、目を引くようなカラフルなパッケージからシンプルなものまで、色や大きさも様々だった。パッケージに印字されている文字をよく見ると、薄さやサイズの表記がされており、なるほどそのせいでやたらと種類が多いのか、とルルーシュは納得した。
 まず、薄さというのはおそらく、ゴムの厚みのことを指しているのだろう。1ミリにも満たないと記されている商品が大半であったが、果たしてそれは強度的に大丈夫なのだろうかと、些か心配になった。
 サイズというのは所謂、性器の大きさを指しているのだろうか。S、M、L…と言った調子でサイズが表記されている。ルルーシュは、なんだか衣類のようだな、と場違いな感想を抱いた。
 適当な箱を手に取りパッケージの裏面を見れば、細かく数値が記されており、どうやら陰茎の太さに由来したサイズ表記がなされているらしい。メジャーを使って陰茎の太さなどを具体的な数値を計ったことは当然なく、ルルーシュは記憶の中の彼のペニスを思い浮かべ、右手の親指と中指で輪を作った。

(俺の指の長さは大体このくらいの数値だったはずだから、スザクの直径は……)

 ここにきてはっと我に返ってしまったルルーシュは、爆発音が聞こえそうなほど首から上を紅潮させ、その場に蹲った。さきほどから顔色が青くなったり赤くなったり、まったく慌ただしい事この上ない。平常時に自分たちの色事めいた話題をスザクからされるのも、自分からするのも羞恥で憚られるというのに、あらぬことを想像してしまった自分自身に対し、ルルーシュは顔から火が出るような気恥ずかしさを覚えた。
 だが一周回って冷静に考えると、ここで間違ったサイズを購入した場合、たとえば小さすぎると入らないし、大きすぎると抜けてしまって意味がない。この場に本人が居ない限り、ここで自分がしっかり彼の、記憶の中にある勃起時のペニスの大きさを想像し、数値を見極めなくてはならないのだ。彼のペニスの大きさはこのくらいかと軽く指で輪を作って再現できるということは、それはそれで何度も体を重ねているのだという証明でもあり、その事実がますますルルーシュを羞恥に至らしめた。
 恥を忍んでええいままよと腹を括り、己の指の長さからおおよその円周を推測した後、円周率を乗算してだいたいの直径を導き出した。このような卑猥なことに、学校で学んだ学習内容を活用する日が訪れるとは思わなかった。

「ありがとうございました、またお越しくださいませ」
 店員の挨拶を背中に受けながら、ルルーシュはなんとかやるべきことを完遂することができた。
 きちんとレジを通して所定の金銭を支払い、レシートも貰ったにも関わらず、とんでもない犯罪を犯したような、いけないことをした気分に満ちていた。
 だがこれでスザクを、あの恨めしい男をようやく見返せすことができるんだと考え方を変えれば、ルルーシュは少々晴れやかな気持ちにもなれたのであった。


 それから幾日後である。
 スザクがルルーシュの部屋を訪れたとき、ルルーシュはふんと鼻を鳴らしてその箱を見せつけてやった。先日、恥の上塗りのような状況で、ルルーシュがひとり右往左往し苦労して買えたコンドームである。シンプルなパッケージの、ごく一般的なものだ。
「本当に買ったんだ……」
「馬鹿にするなよ」
 スザクの一言目の感想にむっとするルルーシュではあったが、意外だと驚く彼の表情を見れたことはなかなか悪くない。もう二度とあの薬局屋で買い物ができないと思うほどに気落ちしていたが、微かに溜飲が下がった気がした。
「じゃ、さっそく使ってみよっか」
 スザクはそう言いながら、箱を包む薄い透明のビニールを剥がし、箱を開封した。中からは銀色のフィルムに包まれた、四角く薄いものがいくつも出てくる。彼はそのうちのひとつを手に取り、ルルーシュにそれを口で咥えるよう命令した。
「……なんでだ」
「男のロマンだよ」
 スザクの言うところが何なのかは正直、ルルーシュには推し量りかねたが、細かいことを追求するとまた恥をかきそうな気がして、彼に言われるまま封の端を歯で噛んで咥えてみせた。その様子に、スザクは満足げな表情を見せた。この行為にどういう意味や意図があるのかは分からないが、敢えて聞かないでおくことにした。



「……ッ、ふ…」

 避妊具を咥えてはいるものの、唇や歯の隙間からは艶めいた吐息が漏れ出るのは、どうしても抑えられない。
 既に三本、きっちり指の根元まで銜え込んでいたルルーシュの穴は、これからの刺激を予知し、期待に震えているかのようだった。スザクはそろそろ頃合いかと指をゆっくり、わざと前立腺に爪を立てながら引き抜いてやった。ひくつく後孔が名残惜しそうに収縮を繰り返し、いまかいまかとそれを待ち望んでいた。
「ゴム、ちょうだい」
 ルルーシュは口から、まだ封の切られていないそれを離し、手ずからスザクに渡してやった。咥えていた部分が唾液でてらついているのが見えると、なんだか申し訳なくなったが、そんなことはスザクにとって些事にもならないようだった。封の端を歯で銜えた彼は、犬歯を使ってフィルムを切り、中から薄い半透明のものを取り出した。彼はそれを自らの陰茎の頭に被せ、慣れた手つきで伸ばし、ゴムを着けた。卑猥であるはずのその光景に、ルルーシュは無意識のうちに釘付けになっていた。

「ぴったりだよルルーシュ。……サイズが、よく分かったね」

 “サイズが、”と不自然に区切りを入れたその喋り方と低い声音に、ルルーシュは肩が震えた。
「やっぱりお前、分かってて……!」
「どうやって僕のサイズ予想したのかは、また今度教えてね」
「っくそ、この、馬鹿にしやが、…ってぇ、ァう、…ひッあぁあ、っ!」
 スザクはルルーシュが話している途中なのも気に掛けず、彼の怒張は狭く柔らかな中へ、一気に押し入った。



「…っ、は、……」
 オーガズムの後の、独特の気だるさと疲労感に指一本動かせずに居たルルーシュには、目前の男を睨み付けるしか、抗議する術がなかった。スザクからしてみれば、ルルーシュのそれは情事後の色っぽい蕩けた視線だとしか思えなかったが。
 スザクはそれを適当に受け流しながら、体液が溜まったゴムを陰茎から外し、口を結んでゴミ箱に放った。ルルーシュはぐったりしながら、スザクの手元からゴミ箱までの放物線を、視線を動かしじっと追いかけていた。
「次は生でやりたいな」

 このとき既にスザクは、ルルーシュが抗議の声をあげ、全力で抵抗すると想定していたのだろう。

 周到な彼はそのくったりとした体に覆い被さり、既にふやけきった穴に陰茎を押し付けながら、ルルーシュの甘い唇に吸い付いた。
 霞みがかった思考の中、ルルーシュは彼の指す”生で”という発言の意味を測りかねていた。
 しかし、何も着けていないはずのスザクの陰茎が肛門に食い込む感触がした途端、そこで初めて言葉の真意を、理解した。この口づけは、己の抵抗や抗議を封じるための手段なのかとも、同時に勘付いたが、不幸なことにそれは時すでに遅かった。
 普段であれば、二回目以降はスザクが中に放った精液などのおかげで滑りが良くなるものの、今回は避妊具を着けていたためそれがない。そのため、体内の内壁が引き攣るような、捲れ上がるような独特の感覚に、ルルーシュは思わず顔を顰めてしまう。
「このっ、馬鹿、やろ……ッ!」
「ちょっと中、引き攣ってる、ね?」
「っなら、クリーム足せば、…っいい、だろ…!」
「僕が、このまま出しちゃえば、問題ないんじゃ、ない」

 あまりにも最低すぎる発言に、ルルーシュは言葉を失った。

 この馬鹿、と罵ろうとしても、唇を開けばあえかな喘ぎ声しか漏れず、しまいには必死に口を噤んで息を押し殺すことしか、できなくなっていった。
 びゅく、と腸壁に生暖かい液体がかかる感覚がして、ああまた出しやがったのかと熱に浮かされた頭の、どこか冷静な部分でその事実をただ受け入れていた。




「お願い、最後にもいっかいだけ、ね」
 ぐったりと力の抜けきったルルーシュの下半身を持ち上げ、スザクは本人が聞こえているのかいないのかも判断せずそう宣言すると、腰を引き寄せていた。

 仰向けにされたルルーシュは、不意に下腹部に圧迫感を覚えた。
 そろそろと目蓋を開けると、その目前に形容しがたいほどの、悪夢のような光景が広がっていた。萎えて脱力しきった己の陰茎が所在なさげに腹の上で揺れ、スザクによって腰を高く持ち上げられていたのだ。結合部が自分からも彼からもよく見えるようにされ、気がおかしくなるほどの羞恥を感じた。
 覆い被さるどころか真上から貫き通すように、彼はルルーシュの穴に陰茎を宛がった。先ほどは外してしまっていた避妊具を今度は着けており、薄い半透明のゴムに包まれた怒張はびくびくと、卑猥な穴を目の前にして震えている。
「見てて」
 ぼそりと呟いた彼は、そのまま真上からルルーシュの穴にそれを、ずぶずぶと収めていった。はち切れそうな程広がった己の孔が、あまりにも痛々しい。が、スザクが沈めた腰を浮かせようとすると、孔の縁は捲れ上がって彼の肉に吸い付き、抜けていくそれを中に留めるようとする。力を失っていたルルーシュの陰茎は、その痴態を見せつけられ興奮したのか、再び硬度を取り戻し、臍や陰毛に先走りの汁を散らした。

 ゴムの膜へ健気に吸い付き、出ていかせまいとひくつく己の穴に、ルルーシュは知らずうちに視線が釘付けになっていた。
 今自分はこの男と性行為をしているんだ、と視覚的に嫌というほど認識させられ、ルルーシュは全身の血が沸騰するような心地になった。心臓は早鐘のように脈打ち、肺は押し潰されて呼吸もろくにできなかったが、苦しければ苦しいほど、その苦痛に比例するかのように、快楽と興奮が高まる始末である。
 スザクが先ほど放出した精液が泡立ち、ぐちぐちと、正気じゃ聞いてられない音が鳴った。もう前後も左右も不覚のルルーシュは、どこに出しても恥ずかしい格好にさせられたまま、ひたすら与えられる衝撃に耐え続けるほかなかったのであった。




「早く出てこないと、お腹痛くなっちゃうよ」
「お前のせいだろ」
 事後、理性を半分ほど取り戻したルルーシュは今、布団の中へ籠城していた。
 あんな恥ずかしい思いをして買ってきた避妊具も、途中で外していつもどおり体内で射精され、あまつさえその体液で滑りが良くなると言い出したのだ。ルルーシュはすっかり臍を曲げ、機嫌を損ねていた。
「だって僕別に、毎回ゴム使うなんて言ってなかったし」
 詭弁だ。ひどいこじつけだ。騙し討ちだ。

 かくいうルルーシュも、実のところ、本気で事後の処理を嫌悪しているわけではなかった。
 ただひたすら、恥ずかしいだけなのだ。行為に及んでいる間は理性を飛ばしているため我慢できることでも、すっかり冷静になった頭でそれをしろと言われると憚られてしまう。たったそれだけのことであると、ルルーシュ自身が一番分かっていたし、スザクだってとっくにそれを見透かしているに違いないだろう。ルルーシュが本気で嫌がることを、スザクは一度たりとも強いたことがなかったからだ。
 だからこそ、スザクならいいか、と絆されつつある自分の心を認めたくないという意味でも、ルルーシュは引くに引けなかった。
「じゃあ今度は、僕と二人でコンドーム買いに行こっか」
「……そういう問題じゃない」
 なんだかんだでもうとっくに溜飲の下がっていたルルーシュは、拗ねたような声音でそう答えた。
「恥ずかしがってないで、出ておいで」
「う…」
 当の本人にそれを指摘されると、やはり気恥ずかしさが増したらしい。ルルーシュは渋々と言った調子で布団から這い出て、ようやくスザクに顔を見せた。
「あとでさ、香り付きのやつとか、買ってみようよ」
「香り…?」
 スザクはこれまで、ルルーシュとは一度もコンドームを使用してセックスをしたことがなかったが、今回の一件で何か味をしめたらしい。そんな胸中を露にも見せず、スザクは悪魔のような屈託のない笑顔で、そう誘うのであった。