好きを伝える戦術

 ページを繰る流麗な指先に誘われたのか、滑らかな絹肌が自分のすぐ傍にあったせいか、己を見向きもしないアメジストに苛立ったのか、動機は定かでない。ただスザクは真横にある頬へなんとなく、唇を押し付けてやった。
「……なんだ」
 ようやくこちらを見てくれると思いきや、彼は手元の本から視線を微動だにせず不機嫌そうな声を発するだけだった。そんな釣れない反応にスザクもついつい対抗意識を燃やしてしまうのだが、それは長らく自分達が親友という間柄であったせいかもしれない。
 そうやってもやもやと考え事をしているうちに彼もすっかり意識を手元に移してしまったようで、また沈黙が二人の間に落ちた。スザクは、君がそのつもりなら僕だって手はあるんだぞと言わんばかりに、普段は黒髪で隠された耳の縁に狙いを定めた。彼の髪の毛をかき上げ耳を露出させて、今度は唇を押し付けるだけでなく舌で舐めてやる。
「こら」
 伏せがちな瞳がようやくこちらを向いたと思えば、それはすぐ逸らされてしまった。それはまるで悪戯をする猫の行動を咎める飼い主のような反応である。どうやらスザクと甘い時間を過ごすより、その書籍を読み込むことのほうが彼にとっては優先事項らしい。いったい何がそんなに面白いんだと彼の手元を覗き込み文字の羅列を追ってみたものの、スザクには目が滑りすぎてよく分からなかった。
 だから相変わらず晒されたままの耳に、遠慮なく舌を沿わせた。縁や溝、耳たぶや耳の裏まで丹念に舐めしゃぶってやる。ここでだめ押しという風に、唾液を多く含ませた舌を耳の穴に入れて音を鳴らしてやれば、とうとう痩せ我慢に限界を覚えた彼が体ごとこちらへ向けてきた。
「何をするんだ」
「ルルーシュは本読んでなよ」
 白々しくスザクがそう言い捨てると、ルルーシュは火照った頬を隠しもせずこの馬鹿が、と睨み付けてくる。
 依然としてむくれっ面を浮かべるルルーシュはへそを曲げてしまい、背を向けてしまった。しばらくするとぱらり、と紙を繰る音が聞こえてくるものだから読書に意識を戻してしまったのだろう。己も大概だが、彼だって相当な意固地である。彼はこちらに見向きもせずそれを続けるものだから、スザクだってついつい張り合ってしまうのだ。
 襟足をかき分けると露になるうなじに、べろりと舌を這わせる。すると目の前の彼が一瞬息を詰めるような素振りを見せるから、スザクの嗜虐心はより一層煽られるのだ。そこに続く耳の裏や首筋を舌先で擽られるのがルルーシュは滅法弱いのもスザクはとっくに知っていたから、焦らすことなくそうしてやった。
「……っ、も……やめ……」
 案の定、先に音をあげたのはルルーシュの方である。彼はスザクのほうへ振り返り、目元を微かに潤ませながら抗議してきた。
「ルルーシュはそっち、集中してていいよ」
 スザクはそっち、と言いながら未だルルーシュの手の中で開かれたままの本を視線で指し示した。
「変な気分に、なるから」
「なってよ」

 そう言うや否やスザクはルルーシュの両耳を手で塞いで、彼と自らの唇を合わせた。耳を塞いでディープキスをされると唾液の混ざり合う音や舌の擦れる音が脳に直接響くらしく、彼はあっという間に腰砕けになるのだ。ルルーシュは首を振って抵抗するものの、散々お預けを食らっていたスザクだってそう簡単には解放させてやらない。くちゅくちゅと下品な音をわざと立てればルルーシュは体を悶えさせるのだから、スザクはますます虐めたくてしょうがなくなる。
「ン、ふぅ、……っ!」
 彼の股ぐらに膝を差し伸ばして抉ってやると、水を求める魚のように腰をびくつかせていた。それを気にせずやわく兆しているのだろうそこを執拗に膝で擽ると、ルルーシュは自由な両手で膝を押し返そうとする。しかし彼の意に反してむしろその光景は、自ら股間を押し付けているようにも見えてひどくいやらしかった。そしてそのことに、どこまでも鈍い彼が気づくことはないのだ。
 己の膝に宛がわれたルルーシュの両手を、スザクは自分の首に運んだ。その意図を察したのであろう彼は恥じらいながらも、おずおずとスザクの首に腕を絡めて力を込めてくれるのだから、いじらしいことこの上ない。
 嫌だ嫌だと恥じらいながらもその実、ルルーシュはキスもセックスも大層好きで感じやすい体をしていた。あんなにプライドの彼が陰茎を充血させ己に股を開くのだから、それが事実であることは明らかなのに、彼はなかなかそれを認めようとしてくれないのだ。

 スザクがやっと口を離してやれば、ルルーシュはぽってりと血色のよくなった唇から垂れる唾液を拭いもせず、はふはふと下手くそな深呼吸を繰り返していた。息を整えようとする彼の行動を邪魔するように、スザクが再び膝頭でゆるく兆している股間を刺激すると、きつく睨まれてしまった。
「こんなことするつもりじゃ、なかったのに」
 ルルーシュは自らの脇に放られた本にちらりと視線を向けた。

 新しく買った本が面白いからお前にも読ませたいとルルーシュが言い出したものだから、今日は彼の家でのんびり雑誌や本、映画を観て過ごしていた。スザクだってもちろんそのつもりでルルーシュの部屋へ訪れていたし、午前中はDVDを観て感想を語り合ったりした。ただ少し、魔が差して手を出してしまっただけなのだ。好きな人の部屋で、好きな人の匂いが染み付いた空間で、こうやって二人きりである。そんな場面で発情するなというほうが、スザクにとっては無理難題なのだ。つまりは不可抗力なのであると、いっそ清々しく開き直ったスザクは自らの行動に理由をつけて納得した。

 スザクは先程の、ルルーシュからの言葉を聞いてくすりと笑った。
「こんなことするつもりになった?」
 ルルーシュの顎を掴んで、唇を寄せる。
 彼はキスされるのだろうと予測して目を瞑ったが、スザクはつい芽生えてしまった意地悪心で唇ではなく、真上の鼻先に接吻した。スザクの思惑が掴み取れないのであろうルルーシュは、不思議そうに瞬きを繰り返している。そのあどけない垢抜けなさの残る顔に、スザクは唇を何度も寄せた。ふにふにと柔らかく唇を押し付けられる感覚に擽ったさを覚えるのか、彼はくすくすと笑い声を漏らす。
 目の下や鼻筋を舌の広い部分でべろりと舐められると、ルルーシュはむずがるように目をきつく瞑った。
「っ、ん…」
「…………」
 瞑られた目の上、まるい目蓋を舐めると長い睫毛がぴくぴくと痙攣しだした。アイホールを隅々まで舐めたあとは長い前髪をかき分けて、白い額から生え際までにキスの雨を降らせた。
 唇を滑らせて目尻や米神にリップ音を立てて口付けたあと、えら骨や顎の下に舌を伸ばした。ルルーシュはスザクの愛撫に抵抗する素振りはせず、時折呼吸を乱しながら大人しくそれを受け入れていた。だがその表情は困惑するような、怪しいものを見遣る訝しんだもので、何とも言えない。複雑な表情を浮かべるルルーシュを尻目にスザクは、これでお仕舞いと告げるように、今度こそ彼の唇を軽く吸った。
 渋い顔をするルルーシュに対して今度は、スザクが自らの頬を指先で示した。
「ルルーシュも、やって」
 一瞬眉をしかめたルルーシュはしかし、不承不承という面持ちであるものの、スザクが指さした頬に向かってそっと口元を寄せた。
 その唇はスザクの睫毛、目尻、眉、額へと向かったあと、頬骨、鼻先、口端、下唇を辿った。やわやわとした感触と生暖かく湿った温度がどうしてももどかしい。
 ひとしきりスザクの顔に接吻したルルーシュは、照れ臭さを滲ませながら唐突に告げた。
「お前の顔の、好きなところ」
 言葉失うのはスザクの番だった。
 仕返しに成功したルルーシュは得意げな面持ちで、鼻歌でも歌いそうなくらい上機嫌である。恋人の可愛すぎる愛情表現に、スザクは悶えが止まらないというのに。
「僕も君の好きなところに、キスしたい」
「……すればいいだろ」
 具体的にどの部位にキスしたいのかは、敢えて濁した。だが薄々感付いていたのであろうルルーシュの瞳には情欲の色が滲んでいて、スザクにありありとその浅ましい熱を伝えていた。
 なんだかんだで二人の導火線の火付け役となるのは毎回ルルーシュであった。それほどまでに彼はスザクを故意でも無自覚でも、煽るのが大層上手かった。



「だからってなんで、こんな体勢……!」
 スザクの上に跨がった彼は、怒気すらも孕んだ声音で己を非難して憚らない。スザクはまあまあ、と宥める代わりにゆるく立ち上がった彼の陰茎を刺激した。その甘い痺れに思わず腰が崩れるようで、それを好機とばかりにスザクは目の前の双丘を揉みしだいた。

 あれからどちらからともなく服を脱がせ合って、まだ外は明るいというのに二人して全裸でベッドに横たわった。先程までルルーシュが熱心に読んでいた本は、几帳面な彼らしくもなく本棚の適当な位置に収納されてしまっていた。
「あっち向いて四つん這いになって、僕の上にお尻向けて」
「は?」
 スザクの指示に対して、それはさすがに受け入れ難いと困惑するルルーシュの意思を敢えて無視し、その体を無理やり引っ張り起こした。こんなみっともないことができるかとスザクに噛み付くルルーシュであったが、何度も体を重ねてきたというのに何を今さら抵抗する必要があるのかと指摘してやると、一瞬怯んだ素振りを見せた。その隙にルルーシュの下半身を己の顔に向けさせ、逃げられぬよう臀部を固定させる。彼は必死に脚を閉じようとするも、当然ながらスザクが真下に仰向けで寝転んでいるためそれが叶うはずはない。
 スザクは掴んだ柳腰を引き寄せ、まろい尻に吸い付いた。
「僕の好きなところ」
「ふ、ふざけやがって……!」
「君もソレ、好きだろ」
 それ、と言いながら腰を軽く浮かせると、彼は首を左右に振り乱した。ぱさぱさと当たる毛先が擽ったくて、早くくわえて舐めて擦ってほしいくなる。
「ちゃんと舐めないと、辛い思いをするのはルルーシュだからね」
 スザクが何かを言い含めるように、己に跨がる彼に向かって投げ掛けた。言外に示されたその事象を察したのであろう彼が、スザクの陰茎に恐る恐る唇を寄せている感触がした。
 我ながらずるい文句だとは思うが、ルルーシュの部屋に潤滑油の類いはない。この部屋の主である彼はそれを重々承知しているのだから、そう言われてしまえば従うのは当然なのだ。

 肉のあまりついていない太ももを撫でて、睾丸から肛門の間の部分に舌を伸ばす。そこは俗語で蟻の門渡りと呼ばれ、皮膚の裏側には前立腺が存在するそうだ。その話を聞いてから興味があったスザクは、さっそくその部分を柔く刺激してやった。
「……っ、あ」
 膝頭をシーツに擦り付けて体を震わせる様子から察するに、ルルーシュはこの部分でも快感を拾えるのだろう。未開拓の部分を発見できた喜びで、スザクは胸が高鳴った。
 蟻の門渡り、いわゆる会陰を指でなぞりながらその真上にある肛門に舌先を当てた。平時は当然ながら閉じきったそこを、唾液をまぶしながら抉じ開ける。すると徐々に反応を示してくれるそこはひくひくと縁が柔らかくなり始めるのだ。親指で軽く押すと、そのまま指先を飲み込もうとする。

 こんなはしたない体に作り替えてしまったのは紛れもなくスザク自身であり、自分で言うのもなんだが、いやらし過ぎて心配になった。こんなことを言うとお前のせいだろうがと正論を振りかざされ、機嫌を悪くされるのは目に見えているため口が裂けても言うつもりはない。だがこれだけ肛門が性器のような役割を果たしてしまうと、自慰をするにしても前だけではろくに達することなど不可能なんだろうな、と他人事のようにルルーシュの性事情を憂いてしまった。

 中指を挿し込み、彼の中を見分するようにくにくにと動かす。途端にふるふると尻たぶが痙攣して、それが堪らないんだと身体中から訴えられているような心地になった。
「ねえ、ちゃんと舐めてよ」
「わ、分かって、る」
 己の股ぐらに顔を埋めるルルーシュは、下半身に与えられる刺激に耐えるのが精一杯というふうであった。先程から自分の陰茎の根本を支えたまま彼は微動だにしないから、一向に与えられない刺激にさすがのスザクももどかしくなってきていた。
 ようやく自分の先端に柔らかい感触がして、それは茎の中部まで包んだ。生暖かく湿った感触が肉茎からダイレクトに伝わり、それはルルーシュの口内であると如実に知らせる。裏筋に舌を伸ばされると、頭の奥がじんと痺れて股間に血が集まるのが自分でもよく分かった。
「美味しい?」
「なわけ、あるか」

 口に入りきらない部分は指で擦るといいよと以前教えてやったから、ルルーシュはスザクの言うとおりに口淫を施してくれる。むしろ、自分が教えた通りにしかやろうとしないから、そんな初心過ぎる彼の振る舞いがスザクの支配欲をますます満たしてくれた。
「僕のソレ、好き?」
 今度はルルーシュは何も言わず、それどころか亀頭に歯を立てられた。それ以上余計なことを言うなという彼からの無言のサインだろう。スザクはペニスに歯を立てるという作法を教えた覚えはもちろんないから、ルルーシュが本能で行ったことだ。時折不遜な態度を示すことにも胸がときめくし、余計に捩じ伏せたいとも思ってしまうから、この欲望は彼を前にするとままならない。
「本当に可愛いね」
 先程のスザクによる問い掛けに、ルルーシュは抵抗こそ示したもののはっきりとした言葉による否定は返ってこなかった。否定しないということは肯定のうちだと、ルルーシュと何度も性交するうちに、スザクは彼のそんな分かりにくい心象表現に気づいていた。
 だから恐らく、いやきっと、先程のスザクの問い掛けも答えはイエスなのだ。

 くちくちと音を立てて指が三本動かせるようになった頃には、ルルーシュはろくに口淫も手淫もしなくなった。やはり己の陰茎の根本を支えたままひいひいと肩で息をして、内部から与えられる刺激に耐えることしかできないようだった。
「あ、ひ……ひう……」
「ルルーシュばっかり気持ち良くなってないでさ、早く咥えて」
「むりだ、スザク、指、やめて」
「ほら早く」
 スザクは片方の太腿をルルーシュの頬に擦り寄せて、フェラチオするように急かした。ルルーシュが中で感じるたびに、中途半端に刺激されおざなりになった陰茎に熱い吐息がかかって、どうにももどかしくてしょうがなかった。
 ルルーシュが緩慢な動きで先端を口に含んだのを見計らって、スザクはわざと彼の内部の泣き所を三本指で抉った。
「ッん、んん!んっ、んぁ……!」
 突如与えられた強烈な快感に、ルルーシュは中間ほどまで口内に埋めていた肉棒を引き抜いてしまった。不器用で拙いルルーシュの手管に、スザクは敢えて苛立ちを滲ませるような声音で彼を責めた。
「ルルーシュってば」
「ご、ごめ……」
 思わずそう謝ってしまったルルーシュは再び肉をくわえ直し、頬の粘膜に擦り付けたり先端を啜ったりして、緩いストロークではあるがスザクのそれを懸命に可愛がった。その技巧は全て己自身が仕込んだものであり、彼はますますスザクを官能的な気分にさせる。

 再び前立腺を指で挟んだり揉みしだくと、口淫の動きはぴたりと止んだものの、ルルーシュは今度こそ口からそれを離さなかった。
 頭が良く大変賢い彼は、体まですこぶる物覚えが良かった。その体は仕込ませれば快楽もすぐに拾い、こうした口淫の作法も教えてやればすぐに覚えて、回数をこなすごとに上達していった。下品な言い回しをすれば、ルルーシュの肉体はあまりにも調教のし甲斐があったのだ。
 今もこうして肛門からの刺激を堪えつつ陰茎を離そうとしないあたり、その物覚えの良さにもしかするとそういう面で才能があるのかもしれない、とすら思わせる。
「……いい子だね」
 汗の浮いた尻を撫でてやるとその刺激にも反応するのか、後穴の縁がひくひくと震えていた。

 己の下半身からぬちゃぬちゃと下品な水音がしだすと、ルルーシュの体はより一層鮮やかに色づいた。
 美味しいかと尋ねて、そんなわけがあるかとひどい返事をされた。しかし口ではそう言いつつ美味しくもないそれを懸命に頬張るのだから、やはり自分はルルーシュに愛されているんだなあと場違いなことを考えていた。

 そろそろ顎が疲れてきたのであろう、ルルーシュの動きが鈍くなってきているのが伝わった。
「もういいよ、いれてあげる」
 自分のその言葉を聞いたルルーシュはいそいそとスザクの体から退いた。口元に滴る体液を手の甲で拭いながら、まだまだこれからだというのにシーツの上にへたりこんでいる。
「どんな体勢がいい?」
「……」
 大抵はスザクがああしようこうしようと提案してルルーシュをそのとおりにさせていたため、突然そのような問いをされると思ってもみなったのだろう。ルルーシュは恥ずかしそうに、視線をシーツの上で彷徨かせた。しかし大して間も置かず、彼は口を開いた。
「顔を見たい、近くで」
「……いいよ、おいで」
 スザクは胡座をかいたような姿勢のまま、自らの膝を叩いた。その仕草を確認したルルーシュは控えめに首肯して、そろりと近寄った。警戒心の強い猫のようだが、今のこの状況から顧みるに彼はただひたすら恥ずかしいだけなのだ。
 スザクはルルーシュを自らの股ぐらに乗せて、向かい合わせになるようにそこへ座らせた。

 ルルーシュには後ろ手でスザクの陰茎を支えさせ、スザクは彼の腰を両手で掴み支えた。
 指でも届かなかった彼の奥を先端で割り開き、徐々に杭を埋め込ませるこの瞬間は、筆舌に尽くしがたいほどの多幸感に満ち溢れている。本来繋がるための場所でないそこで愛し合うという人間の体の摂理に背いた行動が、まるで自分達の心の表れのようで哀れでもあり、それ以上に愛しくて堪らなかった。
 自分より少し高い位置にある彼が、熱い吐息を吐き出した。ようやく根元まで埋まったそれに疲労感を滲ませつつ、恍惚とした表情を隠しもしない。平素のルルーシュの見た目は眉目清秀だと随分周囲から持て囃されるが、この時の彼の顔は、どんな時よりもいっとう綺麗だと思っていた。そんな美しい男の、この表情を知っているのは世界でただ一人自分だけなのだと思うと、泣きたくなるほど幸せな気持ちになるのだ。

 掴んでいた腰を揺さぶると、あえかな声がひっきりなしに漏れ始めた。清純な彼の部屋で昼間から事に及んでいるのだと、改めてその事実を突き付けられた心地がしてひどく興奮した。
「僕の顔の好きなところ、どこだっけ」
 スザクは先ほど接吻された箇所をしっかり覚えてはいたが、ほんの出来心で白々しくそう尋ねた。ルルーシュは頬を紅潮させながらスザクの首に腕を回し、その顔に唇を寄せた。
 先ほどは小鳥が嘴で啄むような細やかさだったそれは恥じらいが薄れたのか、今では大胆に唇をすぼめてちゅうちゅうと吸い付いてくる。
「どうして好きなの?」
「んー……」
 ゆらゆらと腰を揺らしながら、ルルーシュはふやけきった頭を必死に動かしてひとつひとつ答えてくれた。
「お前の目は、正直で、分かりやすい」
「そうかな……」
「困ったときに下がる眉が、可愛い」
「うーん……」
「ほら、そういう、顔だ」
 少し照れが見え隠れするスザクの頬を、ルルーシュは慈しむように撫でた。
「昔は丸かったのに、それがなくなって、寂しいけど、これも好きだ」

 先ほど頬骨の上に接吻されたことを思い出して、そういう理由かと合点がいった。幼い頃の自分と比較されていたなんて思いも寄らないから、スザクは驚くと同時に少し不服な気分になった。自分は男であるはずなのに、丸いだとか可愛いだとかと形容されて納得がいかないのである。己の顔が年齢のわりに童顔ぎみであることを加味しても、そんなに可愛らしいと思われていたのかと少し落ち込んだ。
「そんな拗ねた顔、するな」
「す、拗ねてない」
 思わず反射的に言い返してしまい、これでは肯定しているも同然であった。ルルーシュは可笑しそうに笑う。
「いつも俺に、やらしいことをしたり、言わせたりする、この悪い口も、好きだ」
 ルルーシュの指はスザクの下唇をなぞり、己の表情を覗き込んできた。
「俺を言いなりに、させたがる、野蛮な目付きも、」
「……もう分かったから」
「俺に跨がって、必死に腰を振って、汗を垂らすこの額も、好きだよ」

 そんなことを本人に指摘されるなんて、格好悪いことこの上ない。
 スザクはどこかご機嫌で口の達者なルルーシュを黙らせるべく、掴んでいた細腰をぎりぎりまで引き抜いては自らの腰に何度も打ち付けた。痙攣する体を押さえつけ、滅茶苦茶に揺さぶってやる。耳元で泣き叫ぶ声に、少し溜飲が下がった。
「ァっあぁ、っ…んぁ、ひぁン」
「きもちい、ね」
「んん、ッん!う、ぁ…!」
 今度こそルルーシュは何も言わず、ただスザクの腕で揺すられるばかりであった。彼の腹の内側にある浅い部分に向かって亀頭を押し込むように揺すると、もうそれは勘弁してくれと訴えるかのように、頭を振り乱して善がり狂っていた。

 ルルーシュはスザクの首に腕を巻き付けてしがみつくものだから、正直なところ多少動きづらさはある。このまま彼を押し倒し正常位で穴を穿ってやろうかとも思われたが、この体位はルルーシュたっての希望であった。そして何より、多幸感のほうが圧倒的に上回るのだ。今は自分の快楽はひとまず置いておいて、目の前の男を気持ち良くさせてやろうと思った。

 双方の体が密着すると、その間でルルーシュの陰茎が擦れて切なそうに震えているのが視界に入った。そういえば最初からずっとおざなりにされていた部分であったが、彼ならばここを触れずとも達することは容易でないにしろ、可能なことではあった。既に中だけでオーガズムに達することを、彼は何度か経験している。
 スザクは己の腹筋の上で先走りを散らし、ゆらゆらと揺れるそれをじっと見詰めた。
「さ、……触っ、て」
「なんで?」
 ルルーシュは舌足らずな口調で、スザクにそうねだった。スザクが彼のそこを注視していたものだから、恐らく彼が触ってほしいのは今日殆ど触れられたことのない陰茎のことを指しているのだろう。
 スザクはルルーシュの口がきけなくなるほど、わざと乱暴に揺さぶってやった。ろくに喋ることも儘ならない彼はそれでもスザクに嘆願するため、もつれる舌を懸命に動かしていた。
「出した、……っだ、…したい…」
「……出さなくても、ルルーシュは、気持ち良くなれる、よ?」
 その返答を耳に入れた彼は力なく頭を左右に振った。それと同時に汗や涙がはらはらと散っているから、こんな時まで彼は綺麗なんだなと場にそぐわない感想を抱いた。

 本能の部分が我慢の限界を超えたのであろう、ルルーシュは自ら右手を腹の間に忍ばせて、充血しきったペニスに指を巻き付けていた。その淫らな手指は裏筋を引っ掻いたり先端の穴に食い込んだり、亀頭の括れをなぞったりと忙しなく動いている。
 本当は彼を中だけでいかせたかったものの、自らそこへ手を伸ばして自慰を見せてくれるこの状況も、なかなかに悪くない。そう思ったスザクはルルーシュの行動を咎めもせず、好きなようにさせていた。
「ッく、あ…んっ……」
 切ない声を上げながら自慰をするルルーシュはとても艶かしく、ひどく魅惑的である。
 その悩ましげな表情と大胆な指先の動きにスザクが釘付けになっていると、不意に彼が己の名を呼んだ。
「なあに」
「お、お前の、手が、…いい」
「……なんで」
「すき……、好きだから……」
 思いがけないおねだりに、スザクは思わずルルーシュの顔に視線を向けた。
 涙で潤んだ二つの紫が早く達したい、いかせてくれとせがんでいるようにしか見えなくて、スザクはついつい無言で頷いた。そんな可愛い顔をされるとどんなお願いでも叶えさせてやりたくなるのが、男の性というものなのだ。
「僕が前、触ってあげる、から……ルルーシュは、自分で腰、…動かしてごらん」
 スザクはルルーシュの腰から手を外し、彼たってのお望みどおり陰茎をしごいてやった。両手で丹念に愛撫すると、途端にルルーシュは綺麗な顔をくしゃりと歪ませて身悶えた。腰の動きは緩やかで浅く物足りなさこそあるものの、苦悶の表情を浮かべながら自ら陰茎を出し入れしている彼の姿は、控えめに表現しても絶景と呼べるに違いない。
「ア、うァあ、っでる、あ…」
「いくって、言って」
「い、ィ……ん、ん…!いく、ァ、っいく…!」
 馬鹿のひとつ覚えみたいにいくいくと連呼する彼は、全身をわなつかせながら吐精した。せめて自分の名前くらい呼んでほしいものだと贅沢な不満も、ふと胸に覚えた。
 二人の腹の間にかかった精液も気にかけず、彼はぐったりと脱力しきった肉体を己に預けた。なんだかもうこれで満足がいったと言わんばかりの仕草にスザクはむくれながら、まだ彼の中で存在を示す怒張を内壁へ擦り付けた。
「僕はあと二回くらいやりたいんだけどな」
「……多すぎだ、この体力馬鹿」
 そんな罵り文句は内容こそ失礼極まりないが、その声音は優しく愛しいものを呼ぶようなものである。そこに否定の色は滲んでいないから、これは恐らく了承の意だ。スザクはそう都合良く解釈して、すっかり力が抜けきったルルーシュの体を横たえさせた。
 穴が擦れてくすぐったいと、ルルーシュは見悶え体を震わせた。そんな些細な一挙一動でスザクの目も心も奪う彼は、己をどうしようもないほど堪らなくさせるのだ。