素知らぬ熱情

 この地球の土地はおもにふたつに分類される。神聖ブリタニア帝国の領土か、それ以外か、だ。

 地球上の領土の三分の一を占めるにまで国を成長させた功労者である国王・シャルル皇帝陛下が崩御したのち、シャルルの息子であるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに皇位が譲られた。本来は長兄であるシュナイゼル殿下に皇位が譲られるはずであったが、シュナイゼル殿下が直々に弟であるルルーシュに皇位を譲り渡すと宣言したためである。
 しかしうら若き彼に超大国の皇帝など務まるのかと国内外で反発が起こり、一時は権威目当ての官僚たちが摂政政治の導入を求めた。一般的にはまだ高校生と呼べる年齢の彼に国政を委ねられないという名目の元、その実みな己が君主に代わって国を動かしたいというエゴが主な理由であった。
 一時は内乱が起こるかと危ぶまれたが、年端もいかない新皇帝の手腕によってその騒動は徐々に鎮圧されていった。どうやら相当頭が切れるらしい彼は、皇位継承直後で安定していない国政に付け込みテロを企てる反乱分子もひとつ残らず一掃した。
 そしてこれまで神聖ブリタニア帝国が民衆に強いていた厳しい階級制度や貴族特権、出身によって待遇が区別される封建的制度を悉く撤廃し、個人の人権が尊重される現代に寄り添う政治を行った。とくに弱者とされがちな被支配階級の救済や上流階級が支配し蓄えていた富を民衆に分配するなど、一般市民に寄り添う政策に力や資金を注いだ。
 若いからこそ持ち得るのだろう斬新で柔軟な発想、因習に捉われない臨機応変な対応なども相まって、彼は国内外から多大な支持を得るのにさほど時間はかからなかった。
 生まれ変わった神聖ブリタニア帝国の情勢は世界各国に多大な影響を及ぼし、ぜひ我が国も貴国に属したいと名乗りを上げる国まで現れ始めた。神聖ブリタニア帝国は武力を行使せず平和的な方法で今現在も領土を拡大し続けており、その平和的姿勢から新皇帝陛下は歴史に名を遺す名君だとも言われている。

 しかし彼の人気とは裏腹に、皇帝陛下自身の詳細なことについては殆ど謎に包まれている。
 外交やメディアの前など公にに姿を現すのは大抵シュナイゼル殿下であり、皇帝陛下の勅令宣言や声明文をシュナイゼルが代わりに読み上げることもしばしばある。
 それでも皇帝陛下は一切公に姿を現さないのかと問われればそうでもなく、他国との新たな条約締結の協議など重要な場面では皇帝陛下が直々に赴き姿を現す機会も、頻度は少ないが存在する。
 白を基調とし豪華絢爛な装飾が施された皇帝装束を身に纏う彼は、まだ少年から成人男性への移行期間のような、完全に幼さの抜けていない若い青年の顔だちをしている。こんな若い男性が本当に超大国を統べているのかと世間では話題になり、影武者説まで浮上したほどである。しかもその顔だちは中性的で、見方によったら女性とも間違われそうなほどなのだ。
 透き通るような白い肌に艶やかな黒髪、紫の瞳を持つ彼は有体に表現すれば大変美形であった。流麗な仕草や滲み出る育ちの良さに加え、美しいがどこか儚げな容貌に似つかわしい重厚な装束を身に纏い、そして詳細なプロフィールも完全に伏せられていたこともあり、妖しげなミステリアスさも兼ね備えていた。
 そのような印象の結果、女性からの支持はとくに高く、国境を超えてルルーシュのファンは世界中に存在する始末であった。

 今現在世界で最も注目が集まっているであろうルルーシュ皇帝陛下であったが、彼自身の傍で直接警護に当たる者は、どのような場でもたった一人の騎士しか居なかった。彼の一挙一動でさえも世界からは大きな関心を集める今、そのような手薄な警護で果たして安全性は確保されるのだろうかと疑問の声は上がっている。
 しかし皇帝の『王自ら動かなければ部下は動かない』という持論のもと、皇帝陛下は敢えて手薄な警護の元に身を置きいつでも前線に立てるようにしているのだろう、というのが世間一般の推測であった。
 他にも、王は大変警戒心が強く本当に信頼している者しか傍に置かない、潔癖症のきらいがあるのでは、などと様々な憶測も飛び交ったが、皇帝陛下の口から公に対して真相が語られることはついぞなかった。




 先代の皇帝・シャルルが戦争を吹っ掛け、停戦状態が続いていたとある国との和平交渉のため、くだんの国へ直接赴いていたルルーシュは高層ビルの上部で、エレベーターの到着を待っていた。

 公では相手国の皇居で会談することが報じられているが、相手に戦争を仕掛けたのはルルーシュの意思ではないにしろ、こちらのブリタニア帝国側である。相手国側はそれ相応の恨みをブリタニアに抱いているには違いないのだ。
 その報復を実現し仇を討つため、現皇帝陛下であるルルーシュの身に何か起こる可能性もある。その可能性を懸念し、敢えて公の発表とは別の場で和平交渉の対談を行ったのである。つまり報道はフェイクであった。実際はビジネス用の高層ビルの上層階で行われ、この事実は対談に出席する国の代表である二人とその護衛、そして彼らを運ぶ運転士の数名にのみ知らされており極秘のものであった。
 ルルーシュは護衛に例の唯一の騎士を配備し、ビルの地下にあらかじめ手配していた送迎車にはジェレミア卿を乗せていた。


 慣れぬ土地での長時間に渡る和平交渉もなんとか成功し、一気に気疲れが押し寄せていたルルーシュはエレベーターホールで溜息をついた。
 傍に控えていたルルーシュの騎士――枢木スザクは顔を上げ、皇帝を労わるような優しい表情をしてお疲れ様です、と呟いた。

「慣れない場所は余計に疲労が溜まる」
「これからしばらく移動になるので、しばらくお休みになれるかと」


 チン、と安っぽい電子音が響き、エレベーターがようやく到着したことを知らせた。扉が静かに開き、二人を招く。
 スザクは先に中へ入り、扉の横のボタンを押してルルーシュを招いた。ルルーシュは彼の後ろに立ち、エレベーターが階を下るたびに減ってゆく階層の数字をぼんやり眺めた。



 目の前に立っていた彼は、不意にルルーシュのほうへ振り返った。
 すると彼は無言で、熱を孕んだ視線を己に寄越してきた。
 彼の背中越しに、1つずつ減っていく数字をちらりと確認する。たった今、それは70階台を表示していた。

 スザクは白手袋を纏った右手でルルーシュの顎を静かに掬って、持ち上げる。
 この男、とルルーシュは眉を顰めたが、スザクが行動を起こすほうが一歩早かった。



 60。
 スザクはルルーシュの唇を己のそれで柔らかく食んだ。お互い瞼を下ろさず、至近距離で見つめ合ったまま唇を愛撫した。見つめ合うと言ってもルルーシュは目の前の、己より幾分背丈の高いスザクを睨み上げた。

 50。
 ルルーシュは唇に湿った感触を感じた。スザクが唇を薄く開いて、ルルーシュの唇を舌先で舐めていたからだ。
 己の顎に添えられていたスザクの指に、力が篭るのが伝わった。無理やり唇をこじ上げようというスザクの意思をルルーシュは感じた。それに応えるようにルルーシュも唇を開いて、スザクの舌を招き入れた。

 40。
 スザクの舌に抵抗の意を込めて歯を立てると、吐息で笑われた。そんな可愛い悪戯しないで、と彼の雄弁な翡翠が熱く囁いた。互いの舌が縺れ合い始めると、スザクは先に瞳を閉じた。

 30。
 口内をスザクの舌が這い回り、腰がずくりと熱くなった。後頭部に手を這わされたルルーシュは、そのまま真上を向かされた。

 20。
 重力でスザクの唾液が全てルルーシュの口内に滴り落ちた。まだ息継ぎが下手くそなルルーシュは拙いそれの合間に、必死に喉を動かし嚥下を繰り返したが、間に合わなかったようである。口端からだらだらと唾液が零れ、ルルーシュの顎を掴むスザクの指が湿った。

 10、9、8、……。
 ルルーシュは必死に、己の口内を夢中でしゃぶる目の前の男に抵抗した。少し油断をすれば溺れそうになるディープキスに対し理性を総動員して、ルルーシュは彼の腕から逃れようと身を捩った。

 5。
 スザクは名残惜しそうに唇を離して、ルルーシュの唇から伸びる唾液の糸を指で断ち切った。
 そのままスザクは扉の方へ向き直り、扉の横のボタンに手を添えた。その背中はルルーシュにとってはすっかり見慣れた、皇帝直属の騎士のものであった。ルルーシュは必死に息を整え、どちらのものともつかない体液を手の甲で拭い、まだ体内で燻る熱を冷まそうとした。

 B1。
 扉が開くと地下駐車場が見え、ジェレミアが運転席に座る車の姿もあった。

 スザクに促されるままエレベーターから降り、ルルーシュの後ろに付き従う形でスザクも降りた。
 ルルーシュは真っすぐジェレミアの待つ車のほうへ歩んだ。
 その際、背後に控えていたスザクに小声で、耳が赤いよ、と指摘されたルルーシュは、必死に顔に血が上るのを堪えた。
 地下駐車場は薄暗く、人の顔色も至近距離で見なければ大して分からないだろう。ジェレミアはいつもどおり恭しく皇帝陛下に接していたし、ルルーシュ自身も極力いつもの、公に出す表情を取り繕いポーカーフェイスに徹した。

 運転席にジェレミアが座り、その隣の助手席に皇帝が座し、助手席の真後ろである後部座席に騎士が座った。
 運転席の彼とぽつりぽつりと今日の対談の話をしていた皇帝は、不意に背後から視線を感じた。車のバックミラーを盗み見たが、視線を足元に落とす騎士の目しかそこには映っていなかった。皇帝は思わず舌打ちを打ちたくなったが寸で堪えた。

 背後の空気が揺れた気がしたが、皇帝は癪に触るので気づかぬふりをした。


 その後、車は地下通路を通り相手国が手配してくれていた宿泊施設へ向かった。公では皇居の別荘となっているが、それももちろんフェイクであった。
 宿泊施設は都会から少し離れた場所にある一流ホテルであった。ブリタニアから招かれていたのはルルーシュ、スザク、ジェレミアの三人のみだったので人数分の三部屋用意されていた。
 それはこじんまりとした作りではあったが、かえってそのほうが長旅の疲れを癒してくれるとルルーシュは思った。ユニットバスとシャワーの完備はもちろんのこと、ベッドは大き目のセミダブルで、少し豪華なビジネスホテルのような印象だった。あまり広々として豪華な部屋だと余計に疲れる、とルルーシュが事前にそう相手国に相談していたのだ。

 ホテルに帰ってすぐ、スザクはルルーシュの部屋へ立ち入った。
 万一盗聴器や隠しカメラなどが設置されていないかを確認するためである。
 ひととおりの確認が終わり異常が見つからないとスザクが判断し、ルルーシュはようやく長旅の疲れから束の間ではあるが解放された。
 このあとルルーシュはジェレミアと明日の打ち合わせをする予定が入っていたが、とりあえず公の場での活動は本日は終えたので、重苦しい皇帝装束から軽装に着替えようと思案した。どうせ着替えるなら入浴も済ませてしまおうか、とあれこれ考えながらルルーシュは着替えを用意し始めた。


 大袈裟なお飾りの装束を解こうとする皇帝の腕を、騎士は唐突に捕らえた。
「無礼だな」
 皇帝は騎士の不遜な行為を咎め、無礼を働いた彼をねめつけた。

 このあとはジェレミアとの打ち合わせのみだが、本日の公務はまだ終わっていない。今は宿泊施設内とはいえまだ完全にプライベートの時間ではない。
 皇帝は仕事と私用の時間をきっちり区別したがる性質があるらしく、皇帝がここまでが仕事の時間だと決めると一切その間は私情を挟もうとしないし、騎士は取り付く島もないのが常だ。
 だが騎士はそんな様子の皇帝など気にもせず、皇帝を床に組み敷いた。
 騎士は元々軍人で優秀なエースパイロットでもあった。また幼い頃から武術にも長けており、対人格闘において素人同然である皇帝を組み敷くなど騎士にとっては赤子の手をひねるより容易いことであった。

「貴様……」
 腹の底から唸るような、低い声で皇帝は騎士を詰り威嚇した。

 うつ伏せにさせられ両手を背で縫い止めらた。
 完全に身動きが取れない皇帝に向かって、騎士は底冷えするような冷たい視線を向けた。
 皇帝は首を捻って、己を見下す騎士の顔を睨み付けた。騎士はそんな威嚇も抵抗も一切物怖じするどころかうっそりと笑う。一纏めにして拘束していた皇帝の細い両手首に、ぎりぎりと力を込めた。皇帝は痛みに顔を顰め歯を食いしばる。


「うぶな癖に澄ました顔してる君を見てると、すごく興奮するんだ」

「この……ッ!」
 己に無体を働く騎士を詰ろうと口を開いた皇帝であったが、その先は言葉にならなかった。
 晒されていた耳の後ろを犬のようにべろりと舐められ、皇帝は引きつった声が漏れそうになったからだ。

「俺の命令を聞け。今すぐそこから退け、枢木スザク」
「あとでジェレミアさんに僕から明日の話しておくから、もう、王様のお仕事はおしまい」
「何、言って、っあ、ひ!」
スザクはもう、ルルーシュの抗議を鼻から聞く気もないという素振りであった。スザクは耳の穴に舌をねじ込み、そのままじゅるじゅると音を立ててルルーシュの聴覚を犯した。直接注ぎ込まれる卑猥な水音に、ルルーシュは体を震わせじっと耐えた。

「っこの、くそ、ぅぁ、ア!……っも、離せ、このっ、馬鹿力……ッ!」
 ルルーシュも、そう簡単にスザクの手に陥落しては堪るものか、と虚勢を張り続けた。
 腕力でねじ伏せる男の下で、ルルーシュは何度も身を捩らせ、もがき続けた。しかしその健気な抵抗を嘲笑うかのように、散々その男の手によって快楽を教え込まれたルルーシュの体は、スザクの唇の愛撫だけで力が抜けてしまう。
 スザクは右手でルルーシュの両手首を掴んだまま、左手で彼の下衣だけを剥ぎ取った。装束のベルトでルルーシュの手首を拘束し直し、漸く両手が動かせるようになったスザクは、何も身に着けていないルルーシュの下半身に手を滑らせた。


「いい子だから、じっとしててよ」

 ルルーシュはさらに嫌な予感がして、背後に居る男に無遠慮に蹴りを入れようとした。が、それでも無駄に頑丈な彼は、びくともしない。恨めしい男の手がルルーシュの腰を掴み、うつ伏せの体勢から腰だけ高く持ち上げ、己をみっともない格好にさせた。
「だから、じっとしてろってば」
「い、いや、ア、…っやめ、ス、スザクおねが、やめ、ン、あっや、やだ……!」
 ルルーシュは、この獣のようなこの体勢が一番嫌いであると、そう何度もそう伝えてはいるが、悪趣味な彼は己の話を聞き入れようとしないのだ。ルルーシュは羞恥と、屈辱感と、あまりの惨めさに体を震わせることしかできなかった。



「……さすがにローションはないから、唾で我慢してね」
「っ……あ、なに、っ……?ぇ、あ、やめ………っア!?ひッ!!」
 己の尻たぶや肛門周辺を無遠慮に這い回っている、熱く無骨な手のひらに気を取られていた。
 ルルーシュは抗議する間もなく、引きつった悲鳴を上げる。穴の周辺に唾液を塗す彼の舌の動きにのたうち回った。そんなルルーシュの懸命な抵抗も虚しく、慎ましく閉じられた蕾に、彼は這わせた舌を侵入させ、唾液で縁を馴染ませた。

「は、……っ、も、それ……嫌、やめ…ア、んン……、」
 心臓は早鐘のように鼓動し、全身の毛穴から汗がにじみ出るような感じがした。下半身からはじゅくじゅくと泡立つような音が鳴っているのが聞こえると、全身の血が沸騰した。中を見分するような動きで指を入れられ掻き回されると、腰が崩れ落ちそうになる。抗議の声をあげようにも、口を開けば自分のものとは思えない淫らな喃語のような声しか出てこないため、ルルーシュは唇を噛み締めた。装束や床が汚れるだとかそういう、客観的に物事を思考できる冷静さはとうにルルーシュにはなく、スザクに蹂躙されている今の状況を、ただ耐えていた。

 スザクの指を三本銜え込む程度に穴が解れ、ルルーシュも無意識のうちに腰を揺らして快楽を自ら追っていた。スザクが以前言っていた前立腺、と呼ばれる腹の内側にある箇所を擦られると、もうルルーシュは堪らず啜り泣いてしまう。まだ一度も触れられていないルルーシュの張り詰めたペニスは、自らの細い太ももの間で揺れて、甘い蜜を零し続けていた。

 スザクはルルーシュの両手首に巻いていたベルトをほどき拘束を解いてやった。赤く腫れたルルーシュの手首を労わるように撫でさすり、恭しく口付けた。まるで許しを乞うているかのようだった。
「立って」
 スザクはルルーシュの痴態に興奮しきった様子で、言葉少なに彼に言った。スザクは腰に力が入らないルルーシュを抱き起し無理やり立たせ、壁際へ追い詰めた。
 ルルーシュは立ち上がった際、改めて己の格好を見下ろして、羞恥でどうにかなりそうになった。上半身は昼間と同じようにきっちり装束を着込んでいるのに、下半身は何も覆うものがないどころか、肛門は濡れそぼり陰茎は上を向いている。数時間前まではこの浅ましい体で対談に赴いていたのかと思うと、ルルーシュは目の奥が熱くなって、視界が滲むのを感じた。

「壁に手ついて、腰向けて」
 平素は皇帝であるルルーシュが騎士のスザクに命令するのが常だが、今はその身分関係が完全に逆転していた。しかもスザクはわざとルルーシュが嫌がるような、この上ないほど恥ずかしいことばかりを強要した。今もそうである。ルルーシュは当然、首を左右に振って拒絶した。陰茎の先から新たに滲み出た液が膨らんだ竿を伝う感覚にさえ、ルルーシュは肩を震わせた。


 二進も三進もいかないため、焦れたスザクはルルーシュの左手と己の左手を重ね、指を絡めてそのまま壁へ押し付けた。余った右手でルルーシュの震える腰を掴み、スザクは自らの腰にルルーシュの尻を寄せた。スザクによって先ほど散々弄繰り回された穴はひくつき、期待しているようであった。
 スザクは全身ほぼ一糸乱さぬままであったが、ズボンのベルトを緩め自らの陰茎を取り出した。反り立つそれを己の右手で擦りながら、目の前で己のご褒美を待っているかのような、いじらしい素直な入口に亀頭を宛がった。

 ルルーシュはそんな些細な刺激にさえも肩を震わせると、額を壁に擦りつけた。途端に背中からスザクに圧し掛かられ、苦しさでくぐもった声を吐き出した。背後で無体を強いる男の、熱い吐息が耳にかかり心臓が跳ねる。顔に血が集まるのを感じて、首を振った。耳や首まで真っ赤になってしまって、そのことをこの男に指摘され揶揄われるのが、ルルーシュには屈辱的だったからである。
 案の定耳を食まれ、可愛いねとスザクに囁かれ、ルルーシュは目に涙が溜まるのを感じた。

「入れてほしい?」

 先ほどから穴に先端を押し付けているくせに、この期に及んで何をほざいているんだこの男は、とルルーシュは内心ひとりごちた。だが、スザクがこんなことを言い出した時には、大人しく彼の言うとおりにしないと気が狂うほど焦らされる、ということを、ルルーシュは身をもって知っていた。ルルーシュは力の限り首肯を繰り返した。

 ぷちゅ、と肉が食い込む音が聞こえたと思ったら、熱く膨らんだ剛直がルルーシュの内臓を抉った。ルルーシュの口からは粘度のある唾液がぼたぼたと零れ落ち、床を汚した。

「っん!あ…はぁ、アッ…!?んぅ、っア、ひぅ!」
 ルルーシュの穴は健気にスザクの肉棒を食い締め、中でひくひくと収縮を繰り返した。ルルーシュは奥を突かれるたびにあえかな声を喉から押し出し、そのつもりがなくともスザクを喜ばせた。

「や、ゃだ、そこ…あ、んん!あっ…ひぐ、っあん、ン!」
「やだ、じゃなくてもっと、じゃないの?」
「う、あ……ッ?、もっと、っン、あ…!もっ、と…!もっと、あ…ッ!」
 自分が何を言っているのか、言わされているのか、ルルーシュには判断がつかなくなっていた。スザクに何を尋ねられてもルルーシュは形振り構わず首肯を繰り返すし、言えと言われた言葉はどれだけ淫らな語であろうと鸚鵡返しのように答えた。
 スザクは、陥落しきった照れ屋な恋人の痴態に舌なめずりをした。この体勢だとルルーシュの顔が見れないことが惜しいが、腰をこちらへ突き出し、まろい尻を自ら振る恥辱的な姿に、スザクはそそられるものがあった。


 公私を混同せず公には一切私情を持ち込まない真面目な彼だからこそ、プライベートな場に於いて彼を乱せば乱すほど普段の皇帝陛下・ルルーシュとのギャップが際立つのだ。
 ルルーシュは己の正義に反する者に対し、それがどれだけ驚異的な勢力であろうと彼は屈さず正義を貫こうとするし、弱き者には徹底して救済と庇護を平等に与えた。ルルーシュはその高い志と実行力、圧倒的戦略センスや政治手腕に加え清廉でミステリアスな容姿までも兼ね備え、なおかつ高い支持を得ながら世界の王に君臨している。メディアはそんな彼を名君だと称え、世界中が彼の一挙手一投足に釘付けになっていた。

 だがその実彼はこんないやらしい本能をひた隠して、今日も今日とて素知らぬ顔で公務を行っていたのだ。
 そしてそんな彼の素性を暴けるのはこの世でたった一人、皇帝陛下直属の騎士である枢木スザクのみであった。その事実を認識するだけで、スザクは何度もルルーシュの中で達しそうになった。警戒心が強く、自らのパーソナルスペースに他者を招き入れたがらない繊細なルルーシュが唯一、スザクにだけ明け渡してくれたその柔らかい場所を何度も何度も、己の存在を刻み付けるようになすりつけた。


 ルルーシュは壁に縋りつきながらせり上がる射精感に悶え喘いだ。背中に圧し掛かる彼の重さや苦しささえも快感に変換され、もはやどこもかしこも性感帯となっていた。

 そんなルルーシュの様子を見計らったかのように、スザクは目前の真っ赤な耳に口を寄せた。

「ねえ、明日さ、帰国の飛行機、何時?」
「え、あ、っア、あした、ひ、ッ!じかん、っン、うあ、?」
「ジェレミアさんと、あとで話、しないといけないからさ、ねえってば、聞いてる…?」
「ひう、ばか、もっ…わかんな、っア!?ん!ゃ、アっ!」

 スザクはとことん意地悪で悪趣味だ。
 もう限界が近いルルーシュに対して、スザクは仕事の話をしだしたのである。きっとスザクは分かっててこんなことを言っているんだ、とルルーシュは理解はしていたが、思考と体がちぐはぐで、思うことと口に出していることがなかなか一致してくれない。
 ルルーシュの体はスザクの声音に従順な反応を示していた。

「じゃあ今日は一日、陛下さまは、どんなお仕事を、したの?」
「っあ、ン、きょ、きょう…は……、」

 スザクはルルーシュが喋れるよう、突くような腰の動きから、中を捏ねるような動きに変えてやった。そうするといくらか喋りやすくはなったらしいルルーシュは、スザクの質問にぽつぽつと喘ぎ交じりで答え始めた。

「せん、戦争を、…っ、もうやめて…ん、っ仲直りしよ、と、ゆって、」
「その、話し合いで、仲直り、ちゃんとできた?」
「っ、で、でき、できた、っア、ひん、…っ仲直り、した、…ひぁ、ンっ」
「お話のとき、怖く、なかった?緊張、した?」
「こ、こわく、なんかない、っく、ア、…っひ、きんちょ、…っも、ない……」
「そうなんだ、偉いね、いい子だね、ルルーシュ」

 スザクは優しく囁いて、ルルーシュの黒髪を指で梳いて頭を撫でた。
 そうしてやると、途端にルルーシュの中はうねり、スザクの肉棒にヒダをきゅうきゅうと絡みつけた。纏わりつく壁を押し退けるように、再び奥を突く動きに戻ると、ルルーシュの身体は水を求める魚のようにびくびくと痙攣し、彼は悲鳴を上げた。





 翌日、飛行機で無事ブリタニアへ帰国した皇帝は公の前へ姿を現した。

 ルルーシュにしてみれば、昨夜散々啼かされ無体を強いられで、正直立っているのもやっとであったが、そんな様子を国民しいては世界中に発信するわけにはいかない。皇帝はいつもの涼しい顔をして対談の結果を会見や演説で国民に向け発表した。そんな皇帝の隣には何食わぬ顔で控える騎士の姿があり、時折ちらりと視線を寄越してくるのが忌々しくて仕方がなかった。

 その日の夜にはシュナイゼルと今後の国事行為や行事について話をした。とはいっても、そのようなパフォーマンスは殆どシュナイゼルに押し付けているため打ち合わせはすぐに終わった。
 さすがは皇帝陛下の兄であるシュナイゼルは、一見いつもと変わらぬ弟の表情を窺って、何か調子が悪いのかいと尋ねてきた。シュナイゼルも皇帝と同程度、場合によってはそれ以上の洞察眼や勘の鋭さを備えている。その証拠にとは言ってはなんだが、ルルーシュはこれまでの生涯で一度もシュナイゼルにオセロの対局で勝利したことがなかった。
 こういうところにも目敏いらしい兄に対し、皇帝は何食わぬ顔をして、適当な嘘を並べ立てた。しかしすぐ隣に控える騎士の空気が揺れていることに気付き、皇帝は釘を刺すような視線を送った。騎士は白々しく如何なさいましたかとほざくので、皇帝はばかばかしくなってなんでもないとかぶりを振るのであった。

 騎士の働きは優秀すぎるほど優秀なものであった。
 現在のブリタニアの制度は、かつての特権階級には甘く下級階級の者は虐げられる封建的な仕組みを全て壊したものである。そのため、皇帝陛下の政治方針に反感を持つ有力貴族は各地でテロを起こすこともままあった。しかし騎士はそれらの反抗勢力をいとも簡単に制圧し次々と武勲を立てた。政治の安定性だけでなく、政権の強さ、軍事力を見せしめ反抗勢力の結束力や反抗心を削ぐことも、統治する上では必要であった。そのため、そういう意味でも彼は大いに活躍してくれた。そうしてこのような、一種のパフォーマンスじみた派手な活動だけでなく、諜報活動などの情報収集もこなした。騎士は皇帝の盾であり矛でもあった。今のブリタニア帝国は彼の働きなくして存在していないであろう。

 騎士の功績や働きぶりを鑑みると、多少の我儘には目を瞑るべきなのかと皇帝は頭を抱えることもある。
 しかしこのような考えに至っている時点で、自分は彼に十分付け込まれているのだと、皇帝が気づくのはまだ、先の話であった。